第7話 魔術・魔道具開発

 クロエの前世の知識により、新魔術と魔道具開発も日々のみんなの努力でどんどん進んでいった。


辺境伯夫妻とダン、ロイ、クロエは、魔術と魔道具開発の進捗会議のために夕食後に談話室に集合していた。


「さぁ、今日もみんなの進捗を報告していくぞ」


ダンは、さっと手を挙げて「今日は俺から!」とみんなの前に立った。


「俺は、水の電気分解に挑戦してるんだけど、水を電気分解して水素と酸素っていうのに分けることには成功したんだ。だけど、その気体をどうやって集めていったらいいかで、今悩んでるんだ。」


「ん~。水で結界を作ってその中に?ダンは雷と水属性だから……」辺境伯夫人は天井の一点を見ながらブツブツとつぶやいていた。


クロエも目を瞑って前世の記憶を思い出しながら「結界……。んっ!あっ、そうだわ!」クロエが叫ぶとみんなの視線がクロエに集中した。


「ダン兄さま!前にシャボン玉で遊んだことがあったでしょう?シャボン玉の中に水素を閉じ込めるのよ。水素は水素だけでは爆発しないの。だから水素だけを閉じ込めたシャボン玉に雷撃落とすと、シャボン玉が割れた時に外の空気中の酸素と合わさって爆発するわ。シャボン玉爆弾っていうのはどうかしら?」


ダンと辺境伯夫妻は、すぐに理解できなかったが、ロイは「それだ!」とみんなにわかりやすく説明してくれた。

ロイは、クロエが前世の知識をまとめた冊子を読み込んだ後、化学の基礎やそれらを細かく実験して実証しながら、さらにわかりやすくて詳しい図解付きの冊子を追加で作ってくれた。今ではロイの化学に対する知識は、クロエが前世で学んできたことを優に上回っていた。


(さすがは魔道具オタクのロイ兄様だわ!元素の性質もすぐに理解しちゃったし、私が説明するより全然わかりやすいわぁ)



 辺境伯は、コホンと咳払いをして「次は私だな」とみんなの顔をみた。


「私は土と雷属性なんだが、辺境伯領は私が雷撃をあちらこちらで落としているから磁力を帯びてしまった土地が多かったことを思いだしてな。それで磁力を用いた魔術を考えているんだ」


「お父様!素晴らしい視点です!」


「父上!俺も磁力を使った魔道具を考えていたところなんです。クロエから前世の武器でレールガンっていう物ついて説明してもらったんですが、父上の磁力を使った魔術、俺の魔道具と一緒に開発させてください」


「レールガンか。ロイ、あとで詳しく説明してくれ。魔道具であれば、騎士団の兵士たちにも使えるし兵力が上がるな。よし、やるぞロイ」



「じゃあ、次は私ね」と、辺境伯夫人は姿勢を正してみんなに向き直った。


「私はね、みんなが物理で攻撃力を上げる方向で行ってるから、物理攻撃が効かない対象のための魔術を開発しようと思ってるの」


「光魔法か?確かに、魔獣への攻撃は光魔法が最強だな」辺境伯が頷きながら腕を組みなおした。


「そうなの。辺境伯に攻撃してくる対象がどんな者であっても対処できるようにと思ったのよ」


ロイは、前のめりになって手を挙げた。「母上!俺もそれ考えていたんです。光のレーザーガンも開発しようと思っているので、一緒にやりましょう!」


「あらあら、ロイが辺境伯開発部の団長さんね」


突然ダンがロイをぎゅっとハグした。「俺、こんなに凄い弟を持てて良かった!俺、父上と母上が引退後に、ロイと力を合わせて辺境伯領を盛り立てていく未来が見えたよ!ロイ、こんな兄貴だけどよろしくな」


「ダン兄、俺はこの辺境伯の家族でホント良かったと思ってるよ。ダン兄は脳筋で俺はオタク。この組み合わせ、最強だと思うぜ~」


クロエはダンとロイが肩を組んで頭突きし合っている姿を見てとても嬉しくなった。自分もこの辺境伯領を守ろうと再度心に決めた。



「クロエは、騎士団の訓練には慣れてきたか?」辺境伯は優しい眼差しでクロエを見た。


「はい、みんな優しくしてくれて甘えてしまうこともありますが、ビシバシ鍛えてもらっています」


「そうなんだよな~。クロエは騎士団のアイドル的存在になっちゃってるもんな~。隊長達なんか、クロエが行くとすぐに集まって肩車しながら訓練場まで連れていくし、騎士見習いのやつ等も、クロエの剣の相手、毎回じゃんけんで決めてるんだ」ロイはクロエの頭を撫でながら頷いた。


「クロエ、まだ5歳で女の子なのに、騎士団の基礎訓練にちゃんとついていってるし、本当にクロエすげーよ」ダンもクロエの頭をうんうんと頷きながら撫でていた。


クロエは褒められすぎて恥ずかしくなり、コホンと咳ばらいをしてみんなの前で立ち上がった。


「お兄様、ありがとうございます。クロエ、さらに精進いたします! ……で、私の進捗報告ですが、私は辺境伯の冬期食糧対策のために、長期保存出来る保存食の開発を進めています」


「ほう?辺境伯領の冬は長いからな。自領で冬の食糧がまかなえると他領地からの食糧の買付が少なくてすむ。どういったものを保存するんだ?」辺境伯は足を組み替えて、クロエに向き直った。


「はい、前世の世界にフリーズドライ加工という技術があったんですが、食物を凍らせて真空に近い状態で乾燥させます。フリーズドライした食物は数か月から数年という単位で長期保存ができて、乾燥してるので腐ることもないんです。それで、冬に不足する緑の野菜や夏野菜をフリーズドライにして保存できたらと考えました。魔道具でフリーズドライができるようになれば、収穫してすぐに農家の人達に作業してもらえるので。それで、ロイ兄様に魔道具作りをお願いしたいんです」


ロイは目をキラキラさせてクロエを見た。「それいいな!それ、最優先で作るわ!今年の収穫に間に合わせるよ」


「辺境伯領の財政改革にもなるかもしれんな!これは忙しくなるぞ!」


辺境伯は時計をちらっと見て「もうこんな時間になってたか」と、話に夢中になっていた家族に声をかけた。


「よし、みんな今日の進捗会議はここまでにしよう。もうみんな寝る時間だ。次の会議は2週間後にしよう。それまでに開発を進めていくぞ」


* * *


ブラウン辺境伯領では、騎士団や魔術師団そして領民達も一丸となって様々な改良改善に取り組んだ。


クロエとロイは、辺境伯城の近くにある農村地帯に来ていた。


「ロイ兄様!フリーズドライ魔道具の調子はどうですか?」


「調子はいいぜ~!農民たちも現金収入が増えて喜んでるし、どんどん生産量も上がってきてるよ」


クロエとロイは農民たちが暮らす各町村にフリーズドライの作業場を建設し、収穫した作物を瞬時に加工できる場所を提供した。そして税分以上の生産分に関しては辺境伯で買い取り、他領や他国へ輸出する等、どんどん販路が広がってブラン辺境伯領の一大産業となっていった。


そしてクロエが辺境伯城の側に試験的に作った携帯食のフリーズドライ工場は、これまた大当たりで、フリーズドライ加工で作ったお湯を注ぐだけで食べることができる携帯用のスープやシチュー等が大人気となり、生産が追い付かないほどに注文が殺到していた。そして生産工場はどんどん大きくなり雇用も増えて、領民達の暮らしはどんどん豊かになっていった。


騎士団では、ロイが開発したレールガンや光のレーザーガン等、試作品をどんどん作って改良していき、今では魔の森から襲ってくる魔獣もあっという間に一掃できるようになり、魔獣討伐で負傷する騎士はほどんどいなくなった。そしてレーナ率いる魔術師団は、団員を攻撃部隊と医療部隊に分けて専門性を高めた訓練に取り組むようになり、魔術師訓練所を併設して魔術師団の技術の底上げを図っていった。

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