ラブコメかもしれないssの詰め合わせ

水月 梨沙

守るモノは?

ケッコンって何だ?

なんて、この歳で考えるのなんてオレぐらいのもんかなぁ……。


事の発端は今朝――あ、日付け変わってるから昨日の朝か。

オレは(付き合って数週間の)カノジョから怒られた。


「今日、何の日か忘れちゃったの!? ほんっと信じらんないッ!」


よく判らないなりに平謝りのオレに、アイツは言った。


「そんなんだから長続きしないのよ。約束したんだから記念日ぐらい覚えてなさいよね!」


……その時。

ふ、と思ってオレは言ったんだ。


「記念日って、例えば結婚記念日とか?」

「そうよ!」

「だけどウチのオヤジ、そんなん覚えてた事なんて無いぜ? かーさんの誕生日だって忘れて祝わねぇし」


記念日を覚える事がカノジョと付き合う上で必要不可欠なら、世の中の殆どの『旦那』はカノジョと付き合わずに見合いで結婚したって事か?

それとも、別に結婚したら記念日って忘れても平気なんだろうか……ホラ、学校だって入学前にはシオラシイって姿をアピるけど、入っちまえばコッチのモンだし。

今はカノジョとの『面接』期間で、入学が決まりさえすれば――いや、入学しちまえば少しぐらい勝手な事も許される。

つまり、学校も結婚も、大して変わらないんじゃないかな~……なんて。

そう、素直に言ったオレって凄くねぇ?


だけどカノジョは笑って言った。

「婚約指輪って知ってる? 結婚指輪の前に貰うの。それが何で在るか、ちょっと考えてみたら?」

オレは、その時のカノジョの笑いの不気味さを思い出して身震いをした。

 

 

さて、少し考えてみよう。

オレにこんな難問が判るか?

「……って事で行き詰まる気がしたから電話したんだけどさ、かーさんに婚約指輪ってあげたの?」

「お前なぁ……。今、カーチャン機嫌悪ぃんだよ。あんまワケの判らん事で悩ますな。指輪あげた、ハイおしまい。切るぞ」

「待てオヤジ解決になって無ぇ! えっと、なんであげたんだ?」

「んなの婚約の為だろ」

「じゃあ婚約って何だよ」

「結婚するって約束」

「はぁ? 結婚の時にも指輪交換ってあるよな?」

「あるある。むくんでたら最悪だからデカいサイズにしたいっつったら叩かれた」

「じゃ、なんでワザワザ2回も指輪あげなきゃなんねーの? 1回で良くね?」

「オンナって奴ぁ『保証』が欲しいんだよ。あと、光りモン。それとブランド品」

「ふむふむ……」

「つぅかよ、カーチャンが今回キレたのだって」

『プツッ』

そうか、成る程な。

オレは次にカノジョへ電話した。

「……何」

「オレ、もしかして何かプレゼントやるって約束してたんだっけ?」

「バカ」

『ツー、ツー、ツー……』

え、何で?

 


シミュレーションゲームしながら考えた。

「コンヤクはケッコンの前、コンヤクは指輪あげる……」

キャラに当て嵌めながらカチカチやってると、指輪を装備させた奴が魔法くらった。

ま、別に状態異常を防ぐから良いんだけど。

「……ん?」

指輪は、ステータス変化防止の為に装備。

指輪は……変わらない様にさせる。

『変わらない』のは、何だ?

婚約と結婚、2回もって事は状態異常と属性攻撃のガードと考えて……

ガード……守る……

キャラを守る……他のモノから……他、つまりカノジョにとっての『他』は……?


見えそう、だけど見えない。

なんか、多分かなり何かが判りそうだった。


モヤモヤする。アイツを思い浮かべる。何なんだよ気になるなぁ畜生!


「……な」

「守るの、何から!?」


カノジョに電話して、出たらスグに尋ねた。

耳元では『え?』と小さく驚いた様な声がして、そして少し時間を置いてから……くすぐったくなる様な笑い声が聞こえて来た。

「夜中に2回も電話しないのっ」

それが笑いながら言ったんだって判ったから、オレは『ごめん』と謝って続ける。

「でも早く知りたかったんだ。守るのは……」


「や、く、そ、く」

一文字ずつ、区切って発せられた、その言葉。

「……『約束』?」

「そっ。私、取り敢えず約束は守って欲しいよ。やるって言ったからには、ちゃんとやって?」

「あ……えっと、うん……」

なんか、出そうとしてた『答え』とはズレてる気がする。

そんなオレの気持ちも知らず、カノジョは続けた。

「ちゃんと昨日にしてくれるって約束してたのに忘れてたから、私は怒ったんだよ? 婚約指輪って結婚の約束の為にあげるでしょ?」

「結婚指輪は?」

「え……それは、ずっと一緒にいるって約束の証? かな?」

「一回に纏めろよ……」

「きっと大事な事だから、約束を重ねるんだよ」

多分、と付け足したカノジョも、多分ケッコンなんて何なのか……本当の所は判って無いんだろうな。当たり前だけど未婚だし、コンヤクだってまだなんだし。


……けど、オレは一つ判った事がある。

だから素直に謝った。


「本当にごめんな、その……約束したのに、忘れちまってて」

「ん」

カノジョは許してくれたみたいで、それから『昨日が何の日だったのか』を教えてくれた。


その埋め合わせを『約束』して、電話を切って。

今度こそキチンと守ろうって決心したオレは、キャラを守る代わりに壊れたアイテムを新しく買ってからゲームの続きに取り掛かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る