お月さまのよりどころ-オレの幼馴染は、死んだんけど。

@rita2299

第1話-後ろに居るよ、ミカ

今月また、新曲が出た。

ツキツクは近ごろSNSの更新頻度も新曲のペースも早くて嬉しい。

オレは少し、すこ~しだけわくわくしながら、CDショップで新アルバムを購入し、

今店を出たところだ。


え?現代では音楽なんてスマホで聴ける?CDは時代遅れ?

分かってない。ツキツクがCDを出すなら、売り上げに少しでも貢献するため買いに行くのがファンというものだろ。


そんなCDを大事に大事に抱えながら、街中・秋葉原の信号を渡る。

「あ!!ねぇねぇ

新しくせんべいのお店できてるよ!?

ちょっと寄ってってよ~~」

声と指のさす方向は、煎餅チェーン店「満面屋」の看板。

店内にはちょっとしたミニテーブルに座り煎餅を楽しむ親子が見える。

「………嫌だ。時間の無駄だ」

「え~~ケチ!!

そんなんだから金にも人にも恵まれないんだよ?」

「うっせぇ💢」


後ろから、のしかかるような感覚がした。

その手はさっきまでオレの肩にあったはずなのに、いつの間にか胸元まで伸びている。


「あと離れろ、ルナ」


オレはようやく、真横にあるルナの顔に目を合わせた。

「やーだねっ!

ミカには一生ついてくもーん♡」


「おまえな、高校二年生にもなってオレにベタベタくっついて、

恥ずかしくない…」

『飯作りフィーバー♪飯作りフィーバー♪』

ビルのデジタルサイネージ(巨大なテレビみたいなアレ)の音楽が言葉を遮る。


画面には、オレたちの大、大、大好きなツキツクが映っていた。

「あ!ツキツクの新曲~!!」

ルナも気づいてテンションが上がったようだ。

「こんな都会で、MVまで流れるようになっちゃって…

大物になったなぁ、ツキツク~!」

「成人式の父親かよ…。

でも、まぁ、ファンとしては凄ぇ嬉しいよな…!」

「は~!!!相っ変わらず良い曲作るよな~~!」

「わかる。」

大音量で流れるメロディに聴き惚れて、ついつい足を止めていた。

「この高音が本当に綺麗…いや、綺麗なんて言葉じゃ表せなくてだな…!!」

「そうなんだよねぇ~~!男性とは思えない音域…さすが!」

オレたち二人は興奮気味に数分語った。


        〇ー♢ー〇ー♢ー〇ー♢ー〇


ドンッ

「わあ」

立ち止まっていたから、急ぎの通行人にぶつかってしまった。

カツンと音が鳴ったので、どうやら衝突の拍子にCDを落としてしまったようだ。

しかし割れたわけでも何でもない。拾えばいいだけの事だ。

そう思ってCDに手を伸ばそうと下を向くと、見えていなかった背面から衝撃が走った。

どうやら再び誰かに当たってしまったみたいだ。これだけ混雑した街中なのだから、無理もない。

「ミカ大丈夫?ボク拾うよ」

ルナが尻もちをついたオレに気を効かせて、代わりに拾おうとした。


ルナの白く尖った指先がCDケースへ伸びる。

その一瞬だった。

指先が、地面もろともCDケースをすり抜けた。


「あ、そっかボクの身体じゃ拾えないんだった。ごめんごめん」

何気ないことだから、ルナは笑う。


ルナはである。


そんなことは、既知の事実だ。

だからオレもルナも気にしていない。

ただ、ルナの、親友の死を再確認させられたみたいで、オレはそのまま立ち上がれなくなってしまった。


地面についた手が離れない。足に思うように力が入らない。


息が、うまくできない。


「ちょっ…ミカ、ほんとに大丈夫!!?」

目を見開いたまま硬直してしまったオレを見て、すかさず駆け寄ってくれるルナ。


近くにあった木陰のベンチに、ルナと一緒に座る。

「なんもない。いまミカの前に怖いものなんてなんもないよ~。」

透ける腕と、いつも通りあったかいルナの声を感じる。


昔から、オレはルナに支えられっぱなしだ。

幼いころも、こうやって背中をさすってもらったのをよく覚えている。

実体なんてなくても感じる温かさ。なつかしさ。

そんなあったかいルナに触れて、なんだか視界がぼやけてきたので

顔をそむけた。


「あれ?ミカ泣いてる?どした?」

「…っなんもねぇよ」

「ミカがそう言うときは大体照れ隠しか何かなんだよね~。

幼馴染を舐めるんじゃない!(^_-)-☆」

図星だが、悔しいので何も言わない。

血色の無い手で撫でられて、かえって涙がにじむ。

拾ったCDに雫が落ちる。


「…オレら、ツキツクのお陰で出会ったんだよな。」

「なあに急に。運命の出会いの話がしたくなったの?」

「別に運命でもねぇと思うけど。」

オレは再び、CDを大事に胸に抱えた。


        〇ー♢ー〇ー♢ー〇ー♢ー〇


「でさー。あの時はまだあんま人気なくてさー、」

「『全人類はもっとツキツクを知るべき!!!』なんて

話してたな。」

二人して、なつかしさに表情がほころぶ。

「二人で頑張ってお小遣い貯めてさ、」

「何度もライブ行ったよな。」

「で、その後~まっくらになるまでカフェで語って。」

「そのたびに親に怒られてたけど苦じゃなかったよ。オレは。」


「ルナとおそろいで買ったロゴTシャツもポスターも推しうちわもペンライトも、

まだもってる。

この先のライブでも…ルナと一緒にサイン会行ったり、さ…」


「もう…できねーのかな……っ」

泣きたくないのに気持ちは溢れてしまう。そんなことは何度もあった。

でも、ツキツクと同じくらい大好きなルナが居なくなることのは、

溢れて止まらないこの水滴じゃ表せないくらい―――

…悲しいことなんだよ。悪いか。


「なーに言ってんの」


バッと顔を上げる。

「一生って言ったじゃん。」

ルナは得意げに言ってみせた。

「………っ成仏しやがったら…ぐす……っ

許さねえからな…」

「ハイハイ。高校生にもなって

大泣きしちゃって~~♡もっかい撫でたげよっか?」

「子供扱いすんなっ!!!//」


コイツが後ろに憑いてるうちは、やっぱりまだ泣き足りないみたいだ。

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