第9話 グレゴリーとの対話と決意

夜空の下、ユスフは王宮の庭園を歩きながら、リーナ王女から聞かされた帰還の話について考えていた。星々が輝く静かな庭園で、一人の男がユスフに近づいてくる。それは、戦友であり、信頼できる仲間でもあるグレゴリーだった。


「こんな夜更けに一人で歩いているとは、君らしくないな。」グレゴリーが穏やかな口調で言いながら、ユスフの隣に立った。


ユスフは少し笑みを浮かべて彼に答えた。「考え事をしていたんだ。お前こそ、こんなところで何をしている?」


「君が広間から出て行くのを見かけてな、何かあったのかと思って追いかけてきたんだ。」グレゴリーは肩をすくめながら、夜空を見上げた。「一緒に戦った仲だ。君の心に何があるのか、少しは察しがつく。」


ユスフはしばらく黙っていたが、やがて口を開いた。「リーナが、元の世界に戻る方法があると言ってきたんだ。」


グレゴリーは驚いた表情を浮かべたが、すぐにそれを隠し、静かに頷いた。「なるほど、それで君は悩んでいるのか。」


「ああ…」ユスフは溜息をつき、庭園のベンチに腰を下ろした。「この世界に来てから、俺は多くのものを手に入れた。戦う理由、守るべき人たち、そして自分自身を見つめ直す機会だ。でも、元の世界に戻ることができると聞かされたら、急に自分がここで何をすべきかがわからなくなった。」


グレゴリーもユスフの隣に座り、じっと彼の言葉を聞いていた。しばらくの沈黙が流れ、夜風が二人の間を吹き抜けた。


「ユスフ、お前は何がしたいんだ?」グレゴリーが静かに問いかけた。「異世界に残ることも、元の世界に戻ることも、どちらが君にとって本当に意味があることだと思う?」


ユスフはその質問に対してすぐには答えられなかった。彼の心の中では、二つの選択肢がせめぎ合っていた。異世界に残り、ここでの生活を続けることで、この世界を守ることができる。しかし、元の世界に戻ることで、自分が再び普通の生活に戻り、新たな道を歩むこともできる。


「俺は…」ユスフは言葉を選びながら続けた。「この世界で多くのことを学んだ。だが、元の世界で生きてきた時間もまた、俺にとってはかけがえのないものだ。どちらの道を選ぶにしても、俺は今までの自分を裏切りたくないんだ。」


グレゴリーはユスフの言葉に真剣に耳を傾け、やがて静かに口を開いた。「君がここに残ることを選んだとしても、誰も君を責めることはない。逆に、元の世界に戻ることを選んでも、それもまた君の選択だ。どちらの道も間違いではない。ただ、君自身が何を大切にしたいか、それを見つけることが重要だ。」


ユスフは深く頷き、グレゴリーの言葉を噛みしめた。「ありがとう、グレゴリー。お前の言う通りだ。どちらの道を選ぶにしても、俺が大切にしたいものを見つけなければならないんだな。」


「その通りだ。」グレゴリーは微笑みながら言った。「君がどんな決断を下すにせよ、私は君を支える。だから、君自身の気持ちに正直になれ。」


ユスフはグレゴリーの言葉に感謝し、肩の力を少し抜いた。「お前と出会えて本当に良かったよ、グレゴリー。俺は…もう少し考えてみる。」


「それがいい。」グレゴリーは立ち上がり、ユスフの肩を軽く叩いた。「決断がついたら教えてくれ。俺はいつでも君のそばにいる。」


ユスフは微笑んで頷き、グレゴリーが去っていくのを見送った。その後、彼は再び夜空を見上げ、心の中で静かに自問した。


「本当に、俺は何を求めているんだ…?」


彼の心にはまだ答えが見つかっていなかったが、グレゴリーとの対話を通じて、自分が何を大切にしたいのかを見つけるための手がかりを得たように感じていた。

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