オーパーツ

春雷

第1話

 発掘は難儀だ、と思う。

 この春から大学2年生。考古学研究室に在籍することになった。僕は第一希望を日本史の研究室にしていたのだが、成績不良のため、人気のない考古学に回されてしまった。講義は適度にサボって、ほどほどにバイトして、休日は家でのんびりゲームして、本だけ読んで論文を書く、みたいな学生生活が理想だったのだが、頭の悪さが災いして、炎天下の中ひたすら作業を続ける地獄みたいな学問にどっぷりつかる羽目になった。

 発掘の現場は大体、緊急調査といって、建物を建てる際などに見つかった遺構を調査するという場合が多い。この遺構はよほど重要なものでない限り、取り壊されるので、きちんと記録をとっておかなければならない。学生の身分であるため、あまり重要なことは任されないが、その分雑事をこなさなければならない。学生は僕を含め5人しかいないため、一人の負担がその分大きくなる。

 発掘作業を一通り終え、測量等も終わると、出土品の整理作業がある。出土した土器などを図面に書いて、特徴を記し、報告書として纏めるのだ。これがまた面倒。図面を書くのに慣れていないから、先生に何度も直しを要求される。そのため夜遅くまで土器を睨み続けることになる。何が悲しくて、過ぎゆく青春を土器を睨み続けることに費やさねばならないのか、さっぱりわからない。やれやれ、それもこれも僕の勉強嫌いのせいだ。

 まあそんな愚痴はどうでもいい。そんな風にして研究室のみんなで、長方形の大きな机に向かい、ひいひい言いながら、報告書を書いていたのだが、その内の一人が不思議なものを見つけた。

「こりゃあ、何だ?」僕と向き合って作業していた彼が、そう呟いた。

 僕は顔を上げる。見ると、彼は何かを手に持っている。僕には土器の破片にしか見えなかった。薄手で赤褐色。弥生土器だろうか。

「弥生土器じゃないのか」と僕は言った。

「いや、俺も最初そう思ったんだよ。でもよく見ると、何というか、顔が描いてあって、それが妙なんだよ」

「土器に顔が描いてあるの? 確かに妙だな。彫ってあるってことか?」

「違う。これ、何と言えばいいんだろう。見てもらった方が早いかも」

 僕は彼から、その土器の破片を受け取った。重さも質感も弥生土器のそれと大差ない。しかし、一部に妙な光沢があった。

「何だこりゃ」

 銀色に光り輝いている。触るとすべすべする。シールみたいなものだろうか。しかし、土器にぴったりと張り付いていて、剥がせそうもない。貼り付けたわけではないのか?

 しかもその光沢を覗き込むと、中に誰かの顔が見える。おっさんだ。髭が生えているし、眼鏡も掛けているし、スーツも着ている。ど、どういうことだ、これは。

「岩橋」と彼は僕の名前を呼んだ。「その光沢部分を見ながら、土器を左右に動かしてみろ」

 どういう意味かわからなかったが、僕は彼の言う通りにした。

 すると、その光沢部分にいたおっさんが、僕が土器を動かした方向に従って、顔の向きを変えた。

 僕は驚きで声も出なかった。何じゃこれは。

「3Dホログラムだ」と彼は言った。

「しかし、どうしてこんな土器の破片に・・・」

「いわゆるオーパーツというやつだろう」

「オーパーツ・・・」

「こんな技術が弥生期にあるとは思えん。あるいはこれは、宇宙的存在がこの時代にやって来た証明になるかもな。大発見かもしれんぞ」

 彼はこの発見に興奮しているようだった。


 この発見に日本、世界は湧いた。都市伝説的な説を唱える者、それに反論する良識派、彼らを傍観して楽しむ者たち。みなスタンスはそれぞれだが、それなりにこの話題を楽しむとすぐに飽き、この話題は結局、謎は謎のまま、忘れ去られた。

 僕は大学を卒業した今でも時々思い出す。そして考える。発見者である彼は、あれを宇宙存在がもたらしたものとしていたが、僕は何となく違うと思う。何故って、あのおっさんはどう見ても日本人、というか、見たことのあるおっさんだったから。

 たぶん、2024年あたりの日本人がタイムスリップして、土器に貼り付けたんじゃないだろうか。まだまだ平成が続きそうな現代では、あれが一体何に使われていたのかなんて不明だが。

 

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オーパーツ 春雷 @syunrai3333

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