おおむね良好な義妹との関係

――ガンガンガンガン!――


「おにぃ〜おはよ〜!」


「おはよう義妹いもうとよ。レードルでお鍋叩いちゃだめだって前も言わなかった?」


「何を言っているのさおにぃ。目覚ましといえばフライパンレードル。フライパンレードルといえば目覚まし。これはもはや様式美なんだよ」


「手に持ってるの、フライパンじゃなくない?」


「フライパンは音が悪かった」


「フライパンは楽器じゃないからね。鍋もだけど」


「目覚ましだもんね」


「調理器具だよ」


「細かいなぁおにぃは。そんなことより早く着替えてくんない? 今日一緒に買い物に行く約束じゃんか」


「着替えるから早く出てってくんない?」


「お構いなく」


「出てけ」


「あんっ! おにぃのいけず! 乱暴者ー!」






「で、大型スーパーまで来たわけだけど」


「あ〜そういえば新しい下着が欲しかったんだよなぁ〜ついでに買っちゃおうかなぁ~」


「買ってくれば?」


「うわ冷たい反応。俺が選んでやろうかくらい言えないのかねこの兄は」


「妹の下着を選ぶ兄などこの世にいない」


「やったねおにぃ。この世で唯一の存在になれるよ」


「なりたくねえよ」


「厳密にいえばもうなってるんだけどね」


「こないだ買いに行かされたからね」


「コンビニで買ってきたのには流石の私も驚いたよ」


「男が一人で買ってこれるの女性用下着なんてそこら辺が限度だからね」


「そのせいで足りないんだけど?」


「足りてはいるだろ」


「なんで知ってるのおにぃ……? ま、まさか……!」


「誰が洗濯してると思ってるの?」


「誰が私が洗濯するの禁止したと思ってるの?」


「俺だね。ちなみに理由は覚えてる?」


「私がおにぃのパンツ持っていくからだね」


「じゃあ誰が悪いかわかるよね?」


「懐の狭いおにぃかな」


「貴様には教育が必要なようだな」


「調教モノは好みじゃないんだよね」


「手遅れかもしれん」






「いいから早く買うもの買って帰ろうぜ」


「デートで聞きたくないセリフ第一位だよおにぃ」


「第一位は『今日で最後にしよう』だろ。そもそも今日は何を買いに来たの?」


「目覚ましだけど」


「鍋のことを言ってるんじゃないだろうな」


「失礼だな。レードルだよ」


「どのみち目覚ましじゃねえよ。それよりまた音を確かめるとか言って売り物で遊んだりしないだろうな?」


「試奏もせずに楽器を買う奏者がいると思う?」


「よしわかった。俺が買ってくるからそこのゲームコーナーで遊んでなさい」


「おにぃ……私もう高校生だよ? スーパーのゲームコーナーに収まるような女じゃないんだよ?」


「二千円でいい?」


「うっひょー! 遊び放題だぁ!」






「うわ……」


「きゃっ!? おにぃ!?」


「きゃっじゃねえよ。なんで裸なの?」


「ここが脱衣所で、私がお風呂上がりだからだけど……」


「そうじゃなくて。俺ノックしたよね?」


「したね」


「声もかけたよね?」


「かけたね」


「なんで返事しなかったの?」


「したくなかったからですけど?」


「自由すぎる」


「私からも聞きたいんだけどさ、おにぃ」


「なに?」


「なんでそんな反応なの?」


「見慣れたからだよ。ドア開けたら大概着替え中だし、鍵は閉めないし。わざわざ電気まで消して不在を装うし。それでも念の為ノックしたのに返事もねえし。なんなの? 露出狂なの?」


「……おにぃはさ、私のこと、妹としか見れない……?」


「……そりゃだって、そうなんだから、そうだろ」


「でもさ、私たち、血が繋がってないんだよ? 結婚だって出来るんだよ……?」


「出来ねえよ。俺たちがどうやって義理の兄妹になったか言ってみろ」


「おにぃが私のおねぇと結婚したからだね」


「知ってるか? 日本ではな、重婚は出来ないんだ」


「ちょっと総理大臣なってくる」


「服着てから行け」






「おにぃはさ、なんでおねぇと結婚したの?」


「どうした急に」


「だっておねぇの会社めっちゃブラックで全然家にいないじゃん。おにぃはニートなのに」


「お前個人事業主の在宅ワーカーのことニートだと思ってんの?」


「あれだっけ? 男を無料サンプルで釣ってえっちな絵に課金させるお仕事だっけ?」


「お前はイラストレーターを誤解している」


「そんなことはいいの。それよりさ、帰ってこないおねぇとなんか離婚して、私に乗り換えない?」


「いくら最近あまり話せてなくて寂しいからって、あんまそういうこと言うもんじゃないぞ」


「ちぇっ……なにさ、正論ばっかり」


「大体、寂しいのは俺の方だよ」


「おにぃ……」


「あまあまの新婚生活が出来ると思ったら、生活のほとんどは義妹と一緒じゃねえか……どうなってんだよ……義妹じゃなくて嫁の裸を見せろよ……」


「おにぃ……(引)」






「おにぃ」


「ん?」


「……ほんとに離婚したりしちゃ、だめだかんね」


「当たり前だろ。俺がお前の姉を口説き落とすのにどれだけ苦労してきたと思ってんだよ」


「3回は振られたもんね」


「なんでそういう情報姉妹で共有するかなあ!?」


「……おねぇのこと、大事にしてよね」


「……ああ、当たり前だ」


「私は2番目でいいから」


「都合の良い女ムーブやめてくれる?」






「まーたーかーよー! もーー!!」


「なに荒れてんの」


「この義妹ものも親の再婚相手の連れ子なの! なんで普通に嫁の妹とラブコメしないかなあ!」


「不倫は普通のラブコメじゃないから」


「この多様性の時代にそんなつまらないこと言ってんなよ! 私とおにぃみたいにラブラブコメコメしろよ!」


「身に覚えがないし、多様性の時代でも普通に民事上不法行為だからな」


「それにしたってさぁ、ラノベの主人公の家庭離婚しすぎじゃない?」


「それこそ時代じゃないの? 知らないけど」


「そういうもんかねぇ……で? おにぃはいつ離婚すんの?」


「反省って言葉をご存知でない?」






「なあ、兄の嫁の妹とラブコメするやつならあったけど」


「は? 出直してこい」


「お前のツボがわかんねえよ」






「おい、ちょっと」


「んー? どしたのおにぃ」


「ちょっと座れ」


「えっ何? 私なんか叱られることした? バレるような失敗をした覚えはないんだけど」


「何かしらはしてんのかよ。いいから座れ。大事な話だ」


「……うん」


「なあ、ぶっちゃけどこまで本気なんだ?」


「本気って?」


「あー、だから……あれだよ……姉と別れて乗り換えないかだとか、裸を見せたりだとかだな……」


「あー、それね。どこまでも何も、全部本気だよ」


「……お前、俺のこと…………」


「うん。……だって、おにぃは義理でも兄妹じゃん? 家族じゃん?」


「だから、ダメなんだろ」


「なんで? だからセーフなんじゃん。お風呂上がりの姿を堪能しても、残り湯に浸かっても、洗濯物に頭を突っ込んで深呼吸しても、うっかり裸を見られちゃったりしても。家族ならセーフでしょ?」


「……うん?」


「おにぃはね? 私にとって唯一合法的に性欲を満たすために使っていい身近な異性なんだよ?」


「実家に帰れ」


「嫌です」






「あっ、おにぃ! おはよ〜!」


「おはよう……なんで膝にジャ●プのせて正座してんの?」


「なんでって……私またおにぃのパンツもらったじゃん?」


「じゃん? じゃねえよ。あげてねえよ。今日持ってっただろって問い詰めるつもりだったよ」


「それがおねぇにバレてさ」


「叱られたわけか」


「うん。『共有財産の独り占めはダメでしょ?』って」


「お前と暮らすようになって初めて気づいたよ。嫁も大概だったんだなって」






「今日は二人っきりだね、おにぃ」


「今日、だろ」


「そうなんだけどさ〜……今日はおねぇ、早く帰ってくるはずだったのにね」


「仕方ないだろ……仕事の都合なんだから」


「今日はいっぱい甘やかしてもらう予定だったのになぁ」


「前回は譲ってやったんだから、今回は俺のターンだったはずだが」


「そうだったね。じゃあ今回がおにぃのターンだから、次回は私だね」


「帰ってこれなかったんだから次回に持ち越しに決まってるだろ!」


「そんなに待てるわけないじゃん!」


「お互い様だろ! これだけは絶対譲らないからな!」


「じゃあおにぃが代わりに甘やかして!」


「それもういつも通りじゃ……お前がいいならいいけど」


「私も仕方なくおにぃで我慢するんです〜! さぁて、ゲームにしようかな~映画にしようかな〜」


「その割には楽しそうなことで」






「おにぃさ、私が来たときのこと覚えてる?」


「めちゃくちゃ嫌われてたときの話?」


「嫌ってないよ。おねぇを取られたと思ってたから、邪魔してやろうと思っただけ」


「一秒たりともイチャつかせてなるものか、っていう意思を感じてたよ」


「それがいつの間にかこんなに仲良くなって」


「俺側のセリフじゃない? それ」


「義妹たらしだよね、おにぃって」


「いらない。そんな一人にしか効果のない特効能力」


「明日も上手にたらしてね、おにぃ!」


「明日こそ。ああ、明日こそ。帰ってこい、俺の新婚生活」






_____

☆あとがき☆


 こんな企画で消化するには惜しい設定な気がしないでもない。

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