物語の敵ボスキャラを倒したその先に

武 頼庵(藤谷 K介)

討伐した者達が報告へと国に戻ると――。



「よ、ようやく……この戦いもおわ……た」

 

 そう言い残し、世界に平和をもたらしたとされる男はその場に倒れ、そして――。





「おぉう!! よくぞ戻られた!! この世界に平和をもたらしたよ!!」

 豪華な装飾の付いた椅子から腰を上げ、より大げさに周囲へとアピールする壮年の男性。一国をまとめ上げている王なのだからこその、その威厳を知らしめたいというが故の儀式に近いやり取りを目の前にして、先ほど壮年の王が声を掛けた者達が、王に向かいひざを折り頭を下げている。

 

「「はぁ!! ただいま戻りました!!」」

 俺と共に頭を下げる一人の少女。


「して!! かの者は何処に?」

「は!! それにつきましては……」

 俺は隣に居る少女へと視線を向けるが、頭を下げたまま何も言いだす様子が無い。

しかたが無いので俺が声を上げる。


「も、申し上げたい儀がございます!!」

「よい!! 許す!! その前に……そなたは……誰だ?」

 顔を上げた俺に視線を向け、王は眉間に深いしわを寄せながら俺の事を睨みつけた。


 こういう事になるのは隣に居る少女と何度も話しをしてきたので、ある程度は予想が出来ている。


「わ、私はその……」

「ん? 確かこの城をかの者達が出ていくとき、そなたはおらなんだはずだな?」

「は!! その通りであります。わ、私と隣に居る者は旅の途中で加入した者にございまして……」

「ふむ? そうか……で?」

「は!!」

 俺の事などどうでもいいかのように、先を促す王。周囲も俺の事など全く興味がないようだ。


「その……勇者殿は……最終決戦後にお亡くなりに……」

「なんだと!! 勇者が亡くなっているだと!!」

「は、はい……」

「で、では勇者と共に旅立って行ったモノ達はどうしたのだ!?」

「……お聴きになられますか?」

「もちろん聞かせよ!!」

「……わかりました。では……」

 俺と隣に居る者とは途中で加入したので、そこから先の事しか話せないと断りを入れ、聞いた話も交えながら話を始めた。



 オライオンという前衛を生業とする戦士が居た。

 彼は勇者と呼ばれる男と共に育ってきたという、所謂幼馴染という関係だったようで、幼少のころから勇者とは一緒に鍛錬などもしてきたという。

 しかし残念なことにオライオンには魔法を使えるような素養は無く、勇者と後に呼ばれることになる男の子に比べると、賢さが低い代わりに怪力と回復力が自慢だったそうで、狩猟などに出向くことが出来る年齢になると、勇者と共に狩人に交じり野獣やモンスターと闘う日々を送り、その怪力と回復力を買われて前衛の盾役として、戦闘というものの経験値を積んで来た。


 そして住んでいる地域の領主に見いだされ、勇者と共に初めは領地の安寧を守る役職へとついていたが、その実力は地域だけで燻ぶっていいものではないという領主の判断で首都へと連絡が行き、勇者と共に王都へと招かれ、そこで更に経験を積み、強いモンスターを討伐することによって実績を買われ、この世に悪をもたらす者との決戦に赴く一行の一人に抜擢された。


 旅は始まり、城を出る時は戦士、魔術師、聖女、シーフ、そして勇者の5人だった。


 道中苦難が待ち受け、命からがら逃げる場面もあったが、経験を積むに従い、安定した戦いが出来るようになると連携もうまくなっていく。


 慣れ始めた頃に落とし穴があった。


 とある村を襲う魔物たちを掃討し、村の者達と共に安寧を取り戻した事を喜ぶ宴が催されたのだが、気が抜けきった所を今度は世界を狙う闇のモノに急襲され、その舞台の長と思われる者が回復役を担っていた聖女を狙うと、その聖女をかばい戦士が刃に倒れた。


 残念ながらその長も討伐することが出来ず、戦士の戦力が亡くなった者たちには追い返す事がやっと。


 戦いの後に残ったのは……共に戦って来た戦士オライオンと、村人たちの亡骸の山。

 幼少のころから共に育ち、度にも同行してきた戦士の死は、あまりにも大きな衝撃を勇者にもたらした。


 落ち込んでいてても仕方がないと、世界を闇に染め上げようとする者を討伐するんだと、勇者が顔を上げるのに7日間を要したが、そこからまた討伐するために旅経つ決意をしたと後々聞いた。


それが、半年前の事。



「そうか……初めにオライオン殿が……」

「は!! 私はそう聞いております」

 王のつぶやきに俺が反応して返事をすると、隣りにいた少女もまたコクコクと頷いた。



「ではその後は4人で?」

「いえ、その後は――」

 その後の事を話し出す。



 オライオンという戦士を失った一行は、盾役になりそうな屈強な者を何人か一緒に行動することで試したのだが、幼少のころからの連携を取っていた勇者と戦士オライオンとの関係値を越えられるものがそうそういる訳もなく、随時入れ替えを行いながら進んでいく。


「最終決戦の地には、戦士はおらず3人だけしか残って無かったそうです」

「なに? それは?」

「勇者と魔術師と聖女の三人だと……」

「シーフはどうしたのだ?」

「シーフは――」


 シーフの名は実は勇者一行もはっきりとしたものが分からないと言っていた。シーフ自体ももう本名は捨てたと話していたし、仕事柄偽名を複数使っていた事もあって、もうどれが『呼び名』であるのかすらも曖昧にしていたと、シーフ本人が笑いながら話してくれた。


 この時シーフが名乗っていたのが、アルタという名前。しかしそれが本名なのかは今となっては分からない。


 そしてアルタは実際に亡くなる所を勇者一行は見ていない。だからと言って今も尚生きているとは思えないとは言っていた。


 闇の世界を願う者たちの部隊との戦闘が頻繁になり、とある部隊の潜伏場所へと突入しようと作戦を練り、敵の情報を引き出すために先行潜入したアルタであったが、実行予定の時刻になっても一向に戻ってくる様子が無く、何かあったのかと心配をしているところへ一人の老人が訪ねてきて、アルタの死を告げて来た。


 アルタは潜入後すぐに敵に捕らえられ、拷問された末に息絶えたと語る。その老人こそが、潜伏先の部隊長だったと、後に潜伏先を強襲した時に知る。


 アルタから聞き出したからこそ、勇者一行の居る場所を知ることが出来、そして戦力を見るためにひとり勇者たちの前へと姿を現した老人は、なんと――特級危険モンスターとして名高いリッチだったのだ。


 部隊の者達は聖女の聖なる力の前に次々倒されて行くが、リッチは全く意に返さず、それ以上に愉悦に浸っている様にさえ見えた。


 その場では結局聖女の聖なる力と、勇者の聖なる力への覚醒によって、どうにかリッチを退かせることには成功したが、あまりにも疲弊した事で組織を討伐することが停まる。

 それからしばしの間は、戦力の補強とケガや体力の回復に専念し、ようやく闇の組織討伐へと再出発したのが3カ月前の事。



「ん? おぬしらはいつからかの者達と一緒になったのだ?」

「はっ!! 私とこの者が合流したのはその戦力補強の一環での事でした」

「なるほどな……」

 王は何かを考えている様子。




「そしてようやくたどり着いたのが本拠地でした」

「ほう……。それは何処に?」

「とある山奥に建てられたお城跡のようでした」

「む? もしかすると……アールテム城……だったか。聞いたことが有る」

「はい。その城に至る前に立ち寄った町では、アールテム王国の首都があった場所で、城の名はアールテム城と言っていました」

「やはりそうか……。では闇の組織の正体とはもしや……?」

「…………」

 俺は王の疑問に答えない。





「ではその城が最後の戦いだったのだな?」

「そうなります」

「そこで?」

「はい。お三方はお亡くなりになられました」

「聞こう。どのように?」

「はい……」



 後に語られるアールテム城の戦い。その最初の犠牲者はマルという名の魔術師の男性。マルは御国でも有数の魔法を使うエキスパートの一人で、若くして王国専属魔術師となったものなのだが、実力はあるものの闘う事には消極的な、小動物を愛するような心優しい人物だった。


 かくいう俺も隣の子もまた、このマルには加入当初からお世話になっていた。とても世話をするのが好きなようで、小さい事から大きなことまで相談できて、その答えを明確に示してくれていた。


そんなマルだが、人類に仇成すものを討伐するという事を大義に掲げ、勇者一行との度に同行することになったのだが、時折その心の優しさを垣間見せていた。


そして最終決戦の地にて。


勇者ご一行が思っているよりも相手の戦力が多く、更に魔獣やモンスターが所狭しと存在していて進むこともままならず、次第に体力も精神力も削られて行き、魔法を駆使して闘う魔術師の潜在的な魔力量も減少が激しく、運が悪い事にオライオンを倒した部隊長が再登場し、魔力の無くなったところを狙われて両断されるように体を切られた。


 しかし散り際に部隊長を得意の魔法で足止めし、その部隊長を勇者が討伐するためのアシストをした。マルはその様子を見ながら満足そうな顔をして逝った。



「そうか……マルはやり遂げたのか……あれほど闘う事は嫌だと言って居ったやつがな……」

「見事な散り際でございました……」

「うむ。では聖女殿は?」

「聖女様はリッチと」

「なんと!! またリッチがか!?」

「はい。再選という事で聖女アマリア様も気合十分でございました」

「そうだろうなぁ……あの娘は気が強くてな……」

 アマリア様の名を呼ぶその声は優し気だが、悲しさを内包した静かな声で話す王。



 聖女アマリアはその内包する聖なる力をもってして、国にも教会にも認められた聖女である。王がその名を呼ぶときに悲しそうな顔をするのも、実の娘であるという事も起因していると思われる。


 アマリア様は、国の第三王女様であり、王が寵愛してやまない王妃様の子でもある。であるからしてその寵愛ぶりもまた有名な所であったので、勇者一行と一緒に旅に出る事を一番渋っていたのもまた王なのだ。


 しかし聖女認定された事を機に、王女様は世界へと目を向け始め、平和への願いがより一層増していき、闇の組織が暗躍を始めると心を痛ませる。

 そして勇者選定の儀の末に選ばれた一人の若者を眼にして旅立つことを決意。勇者のパーティの一人としてお城から旅立って行った。


 苦難の道を乗りこえ、たどり着いた最終決戦の地。


 一緒に戦ってきた者達が目の前で力尽きるのを視力を持って支え続けていたが、先にマルが魔力枯れにより脱落。


 気落ちする間もなく進む二人の前に現れたのが、あのリッチだった。

 聖なる力を使いリッチの攻撃をかわしていたのだが、躱しているだけではどうにもならないと理解すると、勇者の制止を振り切りリッチへと単身で突撃し、自分の中に眠る魔力を振り絞る事で聖なる力の暴走を促し、やがてその御身が光に包まれると、リッチに抱き着いて放さず、そのまま聖なる光の暴走に呑み込まれる様にしてリッチと共に光の中へと消えていった。


 収まる閃光。


 その場所にいるはずの聖女の姿は何処にもなく、自分を犠牲にしても世界に仇成すものを倒すために体を差し出したのだった。



 その話をし終えると、目の前に座る王は泣き崩れていた。

 とても話せる状況ではなく、広い謁見の間に王の静かな泣き声だけが響いていた。周囲にいる者たちもまた誰もが泣いている。



「そうか……アマリアは逝ったか……」

 一言だけこぼして、王は上を向く。そして俺に視線を戻した。




「勇者殿はどのように?」

「は!! 勇者殿は――」



 戦士オライオンと共に、王都へとやってきた少年の名はエルン。幼き頃からか活発で正義感が有り、武力も魔力も群を抜いて優秀だとの噂が流れていた人物。

 

 そんな人物は成長すれば勇者となることが決められていたかのように、国からも教会からも正式に勇者と認められ、世に蔓延る闇に染める組織との戦いに身を挺するべく旅立った。


 あまりにも常人的な能力では無いので、実は異邦者と呼ばれる伝説上の異世界人ではないかとの憶測が飛んでいたが、本人は「全然違う!!」「農民の子だぞ!!」と笑い飛ばしていた。


 最後の戦いで、最後まで残った勇者エルンはその卓越した力を存分にふるい、ついに目前に悪の根源と呼ばれる者と相対する。


 その相手は、人間化した邪龍だった。

 人間族が蔓延る様になった世界で、一度世界の浄化という名目を掲げ、二インゲンだけではなく生物全てを消滅させようとたくらんでいたようで、実は最終戦時もまだ邪龍と共に戦っていたモンスターや魔獣といったものたちもいたのだが、それらすらも邪魔だと言わんばかりに一緒に攻撃を加え、最終的に邪龍とエルンだけが残ったといういきさつがあった。


 いくら人の域を越えた存在の勇者と言われているとはいえ、相手は邪龍という凶悪な存在なのだ。段々と勇者エルンは追い込まれて行く。


 手傷を無数に負い、致命的なケガなどをいくつか内包するその体は既に限界だった。最後の最後に振り絞った力が暴走し、聖女の時の様に閃光が周囲を埋め尽くしていくと同時に、勇者エルンの最後の攻撃が邪龍に迫る!! が――。



 邪龍はその攻撃を躱した。

 そして勇者を見てニチャりと笑う。



 勇者エルンはそのまま地に伏した。






「なんだと!! では邪龍は倒しておらんのではないか!!」

「いえ……邪龍は倒されました」

「誰にだ!? 勇者が倒れておるんだぞ!! 誰に倒されたというのだ!!」

「それは……」

 俺は隣で何も言葉を発さないままの少女に視線を向けた。



「貴様か? というか貴様は何者なのだ?」

「わたしは、アレンと申します。そして勇者様たちご一行と共に旅をした荷物持ちものでございます」

「勇者が倒されたのに、その場におったはずの貴様がどうやってここまで戻ってこられたのだ!! 邪龍はまだ生きておったのだろう!?」



「ワタシだ」

 王の疑問に答えたのは、それまで何も言わず静かに顔を伏せたままで俺の隣に居た少女。



「なんだと!! でたらめを申すな!! 貴様の様な小娘に何が出来――」

 王が怒鳴り声を少女の方へと向け始めると、俺達の周囲に重苦しい空気の圧がのしかかって来る。そして王は最後まで言葉を発することが出来なくなった。



「まったくこれだから人とは面倒な。アレンよどうする? しまっても良いか?」

「いやいや物騒な事言わないでくれ!! それとその気を止めろ!!」

「えぇ~? もうちょっとお仕置きが必要じゃない?」

「いいからやめろ!!」

 俺は隣でニタっと笑う少女の頭を叩く。



「き、きさま……何者…だ?」

「ワタシか? ワタシはフレイア。今代の魔王なるぞ」

「ま、まおう? 魔王だと?」

「そうだけど?」

 王の言葉を受け流してニコリと笑うフレイア。



「あ、アレンよどういう事だ!? 何故ここに魔王がおる!?」

「何故と申されましても……闇の組織のボスを倒したのがこのフレイアなので……」

 俺はフレイアを見て疑問に答えると、フレイアもウンウンと頷く。


「邪龍を魔王が倒した……? 何故だ? 何故魔王が邪龍を倒す必要が?」

「え? アレンが倒してって言ったからだけど?」

 小首をかしげて不思議そうにするフレイア。


 謁見の間にいる人達の視線と王の視線が俺へと向けられる。


「えっと……テイムできちゃいまして……」

「は? テイムだと? 魔王を? テイム?」


「「「「「「「「「「いやいやいやいや!!」」」」」」」」」」



「アレンよ」

「はい?」

「お前……何者だ?」

「えっと……荷物持ちだったのですけど、旅の途中で拾った子が魔王で、ご飯あげてたらテイム状態になってしまったので、今は……テイマー……ですかね?」

 俺の話を聞いた王が目を見開く。そして顔を両手で覆った。



「人は? 人は襲わんのだろうな?」

「え? どうなのフレイア?」

「ん? アレンが命令すればするかも?」

「だそうです」


「すまんがそんな命令は……しないでもらえると嬉しいのだが……」

「ん~? する気は有りませんけど……でも」

「でも?」

「私に危害が及ばなければ……ですね」

「……はぁ~。一難去ってまた一難……。わかった。皆の者に命ずる。アレンには絶対に手を出すなよ。本当に絶対だぞ。振りじゃないからな!!」



「あららぁ」

「ラスボスになった気分はどう?」

「は? ラスボスって……魔王はフレイアだろ?」

 くすくすと笑いながら俺を見るフレイア。



「何言ってるのよ。魔王の私をテイムしているんだから、ラスボスはアレン、あなたでしょ?」

「へ?」

「まぁ安心していいわよ。貴方の敵は……わたしの敵だからね……」

「……うん。その時は……ね」

「任せておいて!!」



 こうして、無事に(?)闇の組織のボスを倒した報告は終わった。

 

 

 王の告知により、勇者一行の手柄となった闇の組織壊滅を祝う式典が大々的に催され、周囲の国々も世界が平和になったと喚起に湧いている。



 それとは別に――。

 決して触れてはいけない存在として、俺という『ラスボス』の存在もまた周囲に認知されてしまったのだった。




 その後、俺とフレイアがどのようにして過ごしていったのかは、また別のお話し。








※あとがき※

 御読み頂いた皆様に感謝を!!


 冒頭部分のようなお話になってしまいました。(^▽^;)

 この先ですか? 考えて無いんですけど、機会があればかな?

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