第9話

「久しぶりだな」

大和さんが一ノ瀬さんに声をかけた。


「先輩お久しぶりです。」

一ノ瀬さんも笑顔で答えた。


大和さんは一ノ瀬さんと仲がいいみたいだ。


「お前がここに来たってことは、新しい小説か?」


小説…?


「はい。ここでしか落ち着いて作業できなくて、いつも長居してしまってすみません」


一ノ瀬さんは少し申し訳なさそうに答えた。


「別に気にすんな。この時間はあんま客来ないし。それに、お前の小説楽しみにしてるから」


大和さんの言葉に、一ノ瀬さんはほっとした表情を見せた。


「ありがとうございます」


「じゃ、いつものでいいか?」

大和さんが尋ねると、一ノ瀬さんは頷いた。


「はい。先輩のコーヒー飲むと、頭が冴えて小説を書くのが捗るんですよね」


「それは良かった」


「俺は「ホットコーヒーですよね」」


泰雅さんの言葉を最後まで聞く前に、大和さんが答えた。


「さすが大和。よく分かってるじゃん」


「こんな寒い日にアイスコーヒーを飲むのは秀哉ぐらいですよ」


大和さんの言葉に、一ノ瀬さんは笑った。


「真冬でも飲むぐらい大和のアイスコーヒーが好きってことだよ。ね、秀哉」


「はい」


「そりゃどうも。…先輩、今ちょっといいですか」大和さんが泰雅さんに声をかけた。


「ん?いいけど、秀哉悪い。先始めといて」


「分かりました」


そう言うと、一ノ瀬さんはお店の端にある窓際の席に座った。


そこは自然光がたっぷりと差し込む場所で、外の景色を眺めながら作業ができる。テーブルは木製で、椅子はクッションが効いていて、長時間座っていても疲れにくいデザインだ。


その席は、一ノ瀬さんが集中して小説を書くのにぴったりの場所だ。


むしろ一ノ瀬さんのために用意された席のように思えた。


「陽菜、秀哉にコーヒー渡してきて」


「はい」


私は頷いて、コーヒーを持って一ノ瀬さんの席に向かった。


「お待たせしました。アイスコーヒーです」


「ありがとう」

「一ノ瀬さんは小説家さんなんですか?」


さっきのお話を聞いたところでは、そうだろうと思ったんだけど…違ったかな。


「うん。まぁ、まだ無名なんだけどね」

一ノ瀬さんは少し照れくさそうに答えた。


「それでも凄いですね」

私は素直に感心した。


「ありがとう」

一ノ瀬さんは笑顔で答えた。


笑顔が素敵な人だなぁ。


もちろん泰雅さんもすっごくかっこいいし可愛いんだけどね。


「お待たせ〜」

泰雅さんが戻ってきた。


「ところで一ノ瀬さんと泰雅さんの関係って…」

私は気になって尋ねた。


「先輩は俺の編集をしてくれてるんだ」

一ノ瀬さんが答えた。


「まぁ、アシスタントみたいな感じかな」

「そうなんですね」


今まで泰雅さんがどんなお仕事をしてるのか気になってたけど、聞けてなかったから知れてよかった。

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