第10話
「陽菜。今日一緒に帰れる?」
「え、泰雅さんお仕事は?」
いつもお仕事終わるのだいたい7時頃なのに。
「秀哉の原稿確認したら、そのまま帰れるんだ」
「私、バイト上がるのにまだあと何時間も残ってるよ?」
原稿確認に4時間もかかるのかな…
「いいよ。バイトが終わるまで待ってるから」
気持ちは嬉しいけど、
「でも…」
せっかく早く家に帰れるんだから、ゆっくり休んで欲しい。
「俺が待ちたいの」
泰雅さんの言葉に、胸がキュンとした。
「分かりました、ありがとうございます」
それに、多分私がいくら断ったとしても、泰雅さんは折れないだろう。
「良かった」
泰雅さんの笑顔に、私も自然と笑顔になった。
きっとあの時、大和さんが泰雅さんに私と一緒に帰ってやって欲しいって言ってくれたんだろうな。
「陽菜ー」
大和さんの声が聞こえてきた。
おしゃべりしすぎた。
「あ、今行きます!それじゃあごゆっくり!」
私は一ノ瀬さんに挨拶して、大和さんの方に向かった。
「頑張ってね」
泰雅の声が背中から聞こえた。
「うん!」
私は元気よく返事をして、カウンターに戻った。
「これ、あそこの席に持って行って」
大和さんが注文を渡してくれた。
「はい」
私は注文を受け取り、店内を歩き始めた。
あの人が座っている席を通り過ぎた時、ものすごく視線を感じた。
「お、お待たせしました、ホットコーヒーです」
私は注文をテーブルに置いた。
「ありがとう」
お客さんは微笑んで受け取った。
「失礼します」
私は一礼して、次の注文を取りに戻ろうとした。
「注文いい?」
突然、あの人が声をかけてきた。
「は、はい」
この人、もう2時間以上ここに滞在してる。
だけど、コーヒーおかわりしてくれるし、追い出すに追い出せない。
「アイスコーヒー」
彼の注文に、私は頷いた。
「かしこまりました」
私はカウンターに戻ろうとしたけど、彼が再び声をかけてきた。
「ねえ、」
彼の声に、少し緊張が走った。
「なんですか」
私は振り返り、彼の目を見た。
「ほんとに付き合ってるの…?」
しつこいなぁ。
心の中でため息をついた。
「付き合ってます」
あの日はまだ付き合ってなかったけど、今はほんとに付き合ってるんだから。
私は毅然とした態度で答えた。
「あっそ。どうでもいいけど、俺まだ諦めたわけじゃないからね」
彼の言葉に、少し恐怖を感じた。
分かってくれたと思ったのに。
「私は泰雅さん以外の人を好きにはなれないので、あなたの気持ちに答えることはできません」
あなたが付け入る隙なんて1ミリもないって、ちゃんと分かってもらわないと。
「あいつのどこが…なんで、どうして俺じゃだめなんだよ!」
彼の声が大きくなり、周囲の視線が集まる。
「他の方のご迷惑になりますので…」
「答えろよ!」
そう言って私の腕を強く掴んだ。痛みが走り、恐怖が胸に広がった。
「っ…、離してください」
振りほどこうとしても、彼の力が強くて逃げられない。
「答えるまで離さない…!」
彼の声がさらに荒くなり、周囲の視線が一層強く感じられた。
「俺の彼女に何してるんですか?」
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