第32話 約束


 彼女が突然立ち上がったと思えば、唖然とする俺の顔面に彼女のミドルキックが華麗に決まり、俺はカリン糖を持ったまま情けなく吹っ飛んだ。


 だがしかし、一瞬だけピンクのモノが垣間見えたのは僥倖ぎょうこうであった……。


「ぐはっ……あんぎゃぁぁぁぁぁっ!!!」


 一瞬の僥倖の後には不幸が訪れた。

 俺は地面に強く背中を打ちつけると、ついで鉄球がアソコにヒットし、泣いて悶えた。

 彼女にカリン糖をあげようとしただけなのに、どうしてこうなった……。


 俺が涙に濡れアソコを押さえて地面に丸まっていると、彼女が近づいて来た。


「あの……大丈夫ですか? ごめんなさい、つい足が出てしまいました。でも何でこんな重そうなモノを足につけて……もしかして……罪人の方なんですか?」


 彼女は興味深そうに鉄球をツンツンすると、俺を不思議そうな表情で見つめてくる。

 もうちょっと俺の身体の心配をしてくれ。


「痛たたた……いや、俺は罪人ではない。冤罪でこの足枷をつけられて、このダンジョンに放り込まれただけだ」


 これ以上変人扱いされたら通報されそうなので、何とか起き上がって本当のことを述べた。


「そうだったのですか……そんな酷い事をする人もいるんですね」


 そう言うお前も大概だがな。どの口が言っているんだ。


「ああ、ここを無事出れたら復讐するつもりだ。その為にはまず強くなってこのダンジョンを攻略しないとだがな」

「攻略って……このダンジョンは未だSランク冒険者たちでさえ攻略できてない、難攻不落ダンジョンて言われているのよ?」


 彼女は呆れ顔だ。


「まあ、何とかなるだろ」

「別に強くならなくても普通に此処を出ればいいんじゃないですか?」


 それができればいいんだが。


「いや、どうやらこの足枷に呪いが掛かっているみたいでな、謎の条件をクリアしないと外せないし、外さないと此処を永久に出られないんだ。ならダンジョン攻略が条件の可能性が高いだろ?」

「まぁ……」


 彼女は息を呑み、俺の顔をまっすぐに見つめていた。


「そんなところだ。だからダンジョン内に変質者がいるとか、罪人がいるとかいう通報はしないでもらえると助か……」

「分かりました。約束しましょう。貴方あなたはわたくしが必ず助けてあげますわ!」

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