第22話
稽古が終わり、本校舎の外にあるフリースペースで二重丸と自主練をしていた。
外灯が明るいおかげで台本も読めるし、表情も分かる。
なんだか、今なら感情が上手く出せそうな気がする。それに俺が演じるシーンは1人で稽古すると他の生徒達に通報されそうになるはずだ。
「それじゃ、最後のシーンやるから俺以外の台詞頼んだ」
「了解。任して」
二重丸が手でOKポーズをしてくれる。
俺は目を閉じて、深呼吸をする。集中するんだ。集中すれば出来るはずだ。
「……もう少しだ。もう少しで外に出れる。ここから出れるんだ」
俺はゆっくりとゆっくりと前に進んでいく。稽古の時より前に門がある事を想像できている。
「おい。フリア姫が死んだらしぞ」
「本当か?」
「あぁ、城周りの水路に飛び降りて死んだらしい」
「なんで?理由は?」
「知るかよ」
「……そ、そうだよな」
二重丸が狛田姉妹の台詞を言ってくれている。
「……そ、そんな」
身体から自然と力が抜けて、地面に膝がついた。フリア姫との思い出が走馬灯のように頭に浮かんでくる。今までこんな想像はできなかった。これはちゃんと、NO.1189の気持ちになって芝居をしている証拠なんだろう。
「なんで、なんでだよ。う、うそだぁぁああ」
……フリアが居なくなった事を信じたくない。そんな現実受け入れたくない。頭に浮かぶフリア姫のイメージがどんどんと真っ白になる。それをどうにか気持ちで繋ぎとめようとする。そうか。NO.1189はこんな気持ちなんだ。
「貴様、何者だ」
「ここで何をしている」
二重丸が台詞を読む。
「来るな。来るなぁぁぁ……」
自然と涙が溢れ出してきた。
俺は段取りではなく、自然と右手でジャージのズボンのポケットからモデルガンを取り出し、周りに向ける。
辛い。悲しい。会いたい。フリア姫に会いたい。フリア姫の笑っている顔が見たい。そんなイメージが頭の中に浮かんでくる。俺はその気持ちを自分の身体を通して表現する。
「……フリアが居ない世界なんて。フリアが居ないなら外に出ても意味がない。……き、君のもとへ行くよ……」
遠くの空を見つめながら、モデルガンを右側のこめかみに当てる。
……今すぐ君の所へ行くよ。あっちの世界なら自由に生きられるかな。君に名前を付けてもらって、呼んでほしかった。
呼吸が乱れていく。
死にたくない。けど、生きていても意味が居ない。なら、死んで君の所へ行く。覚悟を決めろ。痛みはきっと一瞬だ。
モデルガンの引き金を引き、その場に倒れこんだ。なんでだろう。この清清しい気持ちは。
「……噓。噓でしょ。なんで、なんで……」
二重丸が真里亜の台詞を言う。
「……ありがとう、二重丸。どうだった?」
俺は立ち上がって、訊ねた。
「なんて言うかね。劇的に良くなってるよ。感情がちゃんと出てるし。こめかみに銃を当て時に遠くを見ているとことか」
「そっか」
感情が入れば、こんなにも相手に伝わるんだな。
「それにね。最後の銃を撃って、倒れた後の嬉しそうな顔が最高だったよ」
「そんな顔してたのか。俺?」
清清しい気持ちがそんな表情を生み出していたのか。まぁ、二重丸が良いって言うなら、そのままにしておこう。それに自分でコントロールはまだ出来ないし。
「うん。あれは感動ものだよ」
「ありがとう。二重丸、自主練付き合ってくれて」
「いいよ。きっと、あの稽古の後なら虎ちゃんが自主練付き合ってくれって言って来ると思ってたし」
「……さすが、長年の付き合いは違うな」
二重丸は本当にいい奴だ。それだから、ずっと一緒に居るんだ。
「まぁね。それに僕のシーンも手伝ってもらう約束だしね」
「そうだったな」
「じゃあ、次は僕のシーンを付き合って」
「了解。どこのシーンをするんだ」
「このページのシーンをお願い」
二重丸は台本を開いて、俺にページを見せてくる。
「わかった。準備が出来たら言ってくれ」
「うん」
二重丸は深呼吸して、息を整える。
今日の稽古で自分の殻を破れた気がする。まだまだ殻はあるかもしれないけど。でも、殻が見つかったらその度に破っていけばいい。
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