第17話
4月23日。
真っ青の空。心地よい気温。最高の休日日和だ。まぁ、休日と言っても、色々としないといけない事が山積みだ。公演の台詞を覚えないといけないし、授業の課題もしないといけない。それに映画や舞台の映像を観て、お芝居の研究もしないといけない。だが、そのどれよりも、優先的にしないといけない事がある。
メイク道具を買うこと。明日のメイクの授業で必要なのだ。このアルス学園に入学するまでメイクはメイクさんにしてもらえると思っていた。しかし、商業舞台や映像作品ではない限り自分達でメイクをしないといけないらしい。
俺と二重丸は真里亜と一緒に演業島にあるデパート・ヒイラギに向かっていた。
メイク道具を買うのに男二人は心苦しいし、知識もない。それに比べて、真里亜は舞台や映像経験もあるし、女性だ。メイクに関しては俺らより圧倒的に知識量が違う。
「へい、野郎共。見えてきましたで」
真里亜は謎のテンションで視界の先にあるデパートを指差した。あのデパートこそがデパート・ヒイラギみたいだ。街にあるデパート並みに大きい。外観は薄いオレンジ色。ここなら校舎にある購買部に売っていないものが置いてそうだ。
「美味しいもの売ってるかな」
「おい。二重丸、今日はメイク道具買いに来たんだからな」
完全にここに来た理由を忘れているな。
「分かってるよ。でも、お昼ご飯は食べるだろ」
「まぁ、そうだけど」
「だったら、いいじゃん」
「お、おう」
なんか言い包められた気がする。それにどうせ、二重丸は俺の目を盗んで何か食べ物を買って食べるだろう。
「2人ともゴーだよ。ゴー」
真里亜は俺と二重丸の背後に回り、背中を押してくる。なんだか、楽しそうだ。こうしていたら、普通に楽しい女の子なのに。嫌われそうなところなんてなさそうなんだけどな。
……嫉妬なのかな。自分達よりも才能がある真里亜が妬ましいんだろうな。俺だって、真里亜の才能には嫉妬してしまう。でも、それで仲間はずれにする事なんてしない。だって、お芝居の才能はピカイチだけど、他の事に関しては周りの子と変わらない。言動とかは変わっているかもしれないけど。
「はいはい」
「ヒューイゴだね。真里亜ちゃん」
「お。さすが、丸丸。分かってるね」
俺達三人はデパート・ヒイラギの前に着いた。
自動ドアが開く。
「広いね」
二重丸は店内を外から見ている。
「広いでしょう」
「お前のものじゃないだろ」
俺達三人はデパート・ヒイラギの中に入った。店内は都内にあるデパートと変わらないぐらいの設備だ。エンタメに関する店がたくさん入っている。
「まぁーね。で、メイク道具を買うんだったんだよね」
「おう。そうだ」
「ファンデーションとかは持ってる?」
「何もかも持ってない」
「僕も以下同文です」
「じゃあ、メイク道具一式買うってことだね」
「そうだな」
「だね」
「分かった。じゃあ、あたしについて来なさい。ベイビー達よ」
「俺達は赤子じゃなくて、高校生だ」
真里亜はすぐにこう言う事をいう。いちいち訂正しないと、そのままずっと言いそうだ。
「つっこむ速度上がってきてるね」
二重丸は感心しているようだ。そんなとこ、感心しなくてもいいのに。
「まぁまぁ、怒らない。怒らない」
「いなすな。いいから、案内してくれ」
「ラジャー」
真里亜は敬礼した。
もしかしたら、真里亜は楽しんでいるのかもしれない。いや、きっとそうだ。他の生徒の前ではこんなふうにしない。
真里亜が先頭に立って歩く。真里亜の足取りはどことなくスキップしているようにも見える。まぁ、ここは何も言わない。そうしないと、目的地に着くまでに何分掛かるか分からない。
「ここだよ」
真里亜はメイク道具販売店「月桂樹」の前で言った。
「ここか」
「男二人だと、ちょっと入りづらいね」
「だな」
「さぁ。入るよ」
俺達三人はメイク道具販売店「月桂樹」の中に入った。
店内には様々なメイク道具が置いている。見た事はあるが、名前を知らないものばかりだ。
店員はいない。それもそうだ。デパート・ヒイラギの全ての店には店員が居ないんだった。ロボット達が警備をしているだけ。購入時は全てセルフレジ。何かあればリモートで専門の人に訊ねる事ができるんだった。
「真里亜、ちょっといいか」
「なんだね?」
「メイク道具何がいるか教えてほしい。メールに書いていたもの以外にも必要なものがあれば」
「あ、僕も」
「りょっす。買い物籠をお持ちなさい」
「わかった」
「了解です」
俺と二重丸は真里亜の指示通りに買い物籠を手に取った。
「じゃあ、入れていくのでびびるなよ」
真里亜はキメ顔をした。かっこつける事か。まぁ、選んでもらうんだからつっこまない方がいいな。
俺と二重丸は頷いた。
真里亜は猛スピードでメイク道具を俺達の籠に入れていく。忍者のように軽い身のこなしだ。いや、女性だからくの一か。まぁ、そんな事はどうでもいいか。それより、こんな所で体力を使わなくてもいいのに。
「こ、これで一通りだよ」
真里亜は息を切らしながら言った。
ほら、思った通りだ。あれだけ猛スピードで動けば誰だって疲れる。
「おう。ありがとう」
「ありがとう」
「どういたしまして」
「じゃあ、レジに行くか」
「そうだね」
俺と二重丸はレジカウンターへ向かおうとした。すると、真里亜は「ちょっと待った」と、俺達を呼び止めた。
「な、なんだよ」
「どうしたの?」
「ドーランを選ばないと」
「ドーラン?」
「うん。ドーランは肌の色に合うものを選ばないといけないから。試さないと分からないから」
「お、おう」
俺と二重丸は真里亜に連れられて、ドーランが置かれている棚へ行く。
棚には様々な色のドーランが置かれている。棚の下の机には試し用のドーランがある。
「自分の肌に近そうな色のドーランを手の甲に付けて見て」
「わ、わかった」
「うん。どれがいいんだろ」
俺と二重丸は試し用のドーランの中から、自分の肌の色に近いものを手に取り、手の甲に軽く付けてみる。
「真里亜。どう?」
「龍虎っちはもう一つ上の濃さのやつがいいね」
「おう。これだな」
やっぱり、真里亜と来てよかった。俺達2人なら訳も分からずに適当に選んでいたかもしれない。
俺はもう一つ上の濃さのドーランを手に取り、手の甲に付ける。たしかにこの色が俺の肌の色と合いそうだ。
「これでどう?」
俺は真里亜に手の甲に塗ったドーランを見せる。
「うん。それでいいと思う」
「ありがとう」
「僕は?」
二重丸は真里亜に手の甲に塗ったドーランを見せた。
「丸丸ちゃんはそれでOKだよ」
「そっか。ありがとう」
「じゃあ、買うか」
「そうだね」
俺と二重丸はそれぞれ合う色のドーランを手に取り、買い物籠に入れる。そして、レジカウンターへ向かう。
レジカウンターで、買い物籠に入れた商品のバーコードを読み取っていく。
結構な額するな。でも、仕方ないな。必要なものだから。
俺と二重丸は会計を済まして、買ったものをビニール袋に詰める。その後、真里亜が待っている店の入り口に向かう。
「ありがとうな。真里亜」
「ありがとう。真里亜ちゃん」
「どうも、どうも」
真里亜は照れくさそうに言った。
「何か奢るよ」
「僕も僕も」
「マジ?マジの助?」
真里亜の目は輝いている。キラキラしすぎだ。ちょっと、眩しいぐらいだ。
「おう。マジでマジの助だ」
「その通りだよ」
「やった。じゃあ、奢ってもらいやす」
真里亜は嬉しそうだ。お芝居をしている時以外は普通の女の子だな。まぁ、言動はちょっとおかしい時はあるけど。初めて出来た楽しい女友達だ。
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