第7話

食堂は生徒で溢れかえっている。

 俺達は昼食を買い、長机前の椅子に座った。そして、昼食を食べ始めた。

「美味い。あ、これも美味い。もう何もかも美味い。生きてるって最高」

 俺の向かいに座っている二重丸はハンバーガーやカツ丼やラーメンを次々と口に運んでいる。二重丸の前に並んでいる昼食だけで軽く1万カロリーは超えてそうだ。こいつ、痩せる気ないな。

「掃除機だね。吸引力の変わらない」

「言えてるな」

 真里亜はカルボナーラと切れていない沢庵を一本食べている。

 ……その組み合わせはおかしいだろ。絶対に合わないぞ。まぁ、この前の5本と比べれば沢庵の量が減っているからいいか。

 俺は焼きそばパンを食べながら、二重丸と真里亜のご飯を食べている姿を見ている。

 ――全員、ご飯を食べ終えた。

「あのさ、あのシャーペンで悲しみを表現してたのって、他のものでも出来るのか?」

 ふと、思った事を真里亜に訊ねた。

「え、見てたの?」

「おう。見てた」

「エッチ」

 真里亜は腕を組んで言った。

「そんな目的で見てねぇよ」

「冗談だよ。出来るよ」

 真里亜は普通に答えた。それだけ自分の表現力に自信があるのか。俺も少しでも早くこう言うふうに言える様にならないと。

「じゃあさ。このメニューの品を言って、僕らを感動させられるの?」

 二重丸は机の上に置かれているメニューを指差して、真里亜に聞いた。

 ……そんな事できるはずないだろ。だって、カツ丼とかサンドイッチとか焼肉定食とかだぞ。

「……うん。出来ると思う」

「本当に言ってる?」

 驚きのあまりに食い気味で聞いてしまった。

「うん。大丈夫」

 真里亜はメニューを手に取った。そして、真里亜の表情はレッスンの時と同じ真剣な表情に変わった。

「焼肉定食、さば味噌定食、から揚げ定食、野菜炒め定食、海鮮定食……」

 ……あれ、噓だろ。涙が出そうになってきている。なんだか、真里亜の声が懐かしい思い出を蘇らせてくる。なんだよ、この感覚。

 二重丸の方を見る。二重丸は号泣していた。決壊したダムのように涙が溢れ出していた。

 俺も耐えられなくなり涙を溢した。

「どうだ。凄いだろ」

 真里亜の表情が普段の表情に戻った。

「……凄すぎる」

「あー涙が止まらない。誰か止めて」

 二重丸の涙腺は馬鹿になっている。ちょっとの間は止まらない気がする。

「あのさ。今度、教えてよ。感情解放のコツ」

「いいよ。龍虎っちなら」

「本当か?」

「うん。私、嘘つかない」

「ありがとう。助かる」

 真里亜から学べることは数え切れない程ある。絶対に全部吸収して、少しでも早く上手い芝居が出来る役者になるんだ。

「僕もお願い」

 二重丸は号泣しながら言った。

「授業料1万貰おうかな」

「え、僕からはお金取るの?」

「ジョーダンよ。丸丸(まるまる)ちゃんにも教えてあげる」

「ありがとう。て言うか、丸丸ちゃんってあだ名?」

「駄目?」

「いいよ。全然いい。けど、二人にお願いがあるんだ。保健室まで連れてって。涙が止まる気がしない」

 二重丸は止めどなく涙を流しながらお願いしてきた。

「おう、わかった。行くぞ」

「うん。保健室に行くべし」

 俺達三人は保健室に向かう為に、食堂をあとにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る