第25話 王城
大神殿から王城へ向かったのは、大神官様とマリオスさん、ファニス様と私の四人だった。
王城に到着すると、一様に髪を撫でつけた男性使用人たちに迎えられた。その中から一歩前に出た男性が、左胸に手を当てて立礼した。
「お会いできて光栄でございます。大神官様。国王陛下より、丁重にお迎えするよう仰せつかっております。どうぞこちらへ。ご案内いたします」
「ああ、よろしく頼む」
自然体で挨拶を返す大神官様は、普通に高位の存在に見える。ニヤついた表情をしていないだけなのに不思議だわ。
私たちは謁見までの控え室として、城内の一室を与えられた。メイドは二人がかりで軽食と紅茶の準備をし、終わるや否や壁際にすっと引いた。
ふふふ。城といい、メイドといい、なんだか懐かしく感じるわ。
「イリアスはお城に上がるのは初めてでしょう? それなのに、あまり緊張していませんね?」
……う。ファニス様はよく見ているわね。
確かに、王城へ向かう道中も、城内に入ってからも、田舎娘の反応ではなかったかもしれない。ついつい前世との違いに感心していたから――。
「鈍感であることが唯一利点に思える事例ですね」
そう言うマリオスさんは相変わらず容赦がないな、と思って彼を見ると、意外にも表情が強張っていた。
珍しい。やはり国王に謁見するということは、昔も今も相当名誉なことのね。
「そう言うお前は、緊張していると言うのにねぇ? あっそうか。お前も初めてかぁ」
うわあ。大神官様ったら意地悪ね。いつも言いくるめられているから、ここぞとばかりに反撃しているわ。
「……な! 畏れ多くも国王陛下に謁見するというのに、あなた方は緊張感がなさすぎです。ファニス様。大神官様をお諌めするなら今しかありません!」
「ん? 別によろしいのでは? ガチガチに緊張してろくに挨拶ができない方が問題だと思いますよ?」
「……な」
当てが外れましたね、マリオスさん。
でも今しかないのは私も同じ。謁見の前に聞いておきたいことがある。
「ファニス様。今日、私たちがここに呼ばれたのは、例の古文書の真偽が判明したからでしょうか?」
……あ。質問は、お尋ねしてもよいか聞いてからだったわ。
「ええ、そうです。あなたの発見したあの文書は、古語の研究者たちの手によって、念入りに調べられました。既に現役を引退された研究者も招集されたと聞いています。何を隠そう私が師事していた先生なのですがね」
ファニス様によると、その老研究者は私の力作を手にした途端、生気がみなぎったらしく、文字通り寝食を忘れてダビドの日記を読み、他の研究者たちと共に、発見された文書の単語や文法を照合したという。
その結果、彼の書いたメモだという結論に至ったのね。
……ごめんなさいね、ダビド。
「研究結果は国王陛下に最初に報告すべきものですから、私も内容は聞かされていません。ですが、こうして報告の場に同席させていただけるということは、きっと良い知らせなのでしょう。あなたにもお褒めの言葉があるかもしれませんね」
私は何も言っていないのに、ムッとした顔のマリオスさんに睨まれてしまった。
「それは少々厚かましい望みなのではありませんか? 大神官様の部下の手柄は大神官様のお手柄なのですから、お褒めの言葉なら大神官様がいただくべきです」
やっとマリオスさんらしくなったわ、と、うっかり笑ってしまった。
そんな風に会話をして、少し場が和んだところで部屋の扉が開いた。
四人の視線を一身に受けた王城の使用人が、「お時間となりましたので、ご移動願います」と無表情で告げた。
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