第7話 騎士の誓い
「いいか。ここじゃ誰もオレたちの面倒なんかみてくれねえ。だから、飯が食いたきゃ働け」
リーダーはデメトーリだと思っていたのに、私はベネディクトの下に配属されたらしい。
デメトーリは、私に直接指示を出さない。
それがサヴァス様の考えなのかわからなかったけれど、とりあえずベネディクトの言うことをきいて動くことにした。
幸い、家事全般はできる。今世で身につけた新しい能力。
イリアスの両親は共に働きに出ていて、彼女は家から出られなかったから、家の中のことをするしかなかったのだ。
まあ、出来るというレベルで、得意とは言い難いものだったけれど――。
「お前。まだ教えてもないのに料理が出来るって本当か?」
「料理をしたことがある」と伝えると、ベネディクトは、なぜか私が何も出来ない子どもだと思い込んでいたみたいで驚いていた。
「じゃあ料理の当番にお前も入れるからな。あと、洗濯も掃除も出来るんだな?」
「もちろん」と答えた私に、「なら、しっかり働けよ!」と偉そうに言ったベネディクトは、慣れないことをしたみたいで、なぜか頬を染めている。
ふふ。可愛い。
「そ、それはオレたちの――。よ、よこせっ」
ある日、私が洗濯する様子をチラチラと見ていたベネディクトは、洗濯物の中に自分たち男ものの下着があることがわかると、彼は私を押しのけて大急ぎで選り分けて持ち出した。
私は別に構わないのに、彼の方は構うらしい。どうせ干し場に行けば見ることになるのに。
やっぱり可愛いな。
一つ屋根の下で暮らしているので、デメトーリとも顔を合わせるのだけれど、感情を表に出さない彼は、その態度もつかみどころがなく、何を考えているのかよくわからない。
ただ、私のことを特別嫌ってはいないようだ。
彼からは話しかけてこないし、私が尋ねても、「そうだ」「違う」「ベネディクトに聞け」くらいしか答えてくれない。
――けれど、尋ねればちゃんと答えてくれる。
こうして、今世では初めて安定して落ち着いた日々を過ごしている。
すっかり
気の早い山菜が白い雪の間から顔を覗かせるようになった。
ベネディクトと二人で山菜取りに行った帰り、彼は小枝を拾って振り回しながら歩いた。
やんちゃな男の子だと思っていたら、「オレは将来、騎士になるんだ」と教えてくれた。
そういえば、歩きながら時々、正面に向かって突くような動作もしていた。
でもどうやって騎士になるのかしら?
本物の剣すら持ったことがなく、稽古をつけてくれる人もいないのに。
そもそも騎士になるには見習いから始める必要があるし――などと思っていたら、ベネディクトがいきなり振り返って立ち止まった。
何かを決心したようで、結んだ口元に力が入っている。
「お、お前は将来、き、貴婦人になるかもしれないからなっ」
「貴婦人?」
「上等な女の人っていう意味だ。貴婦人は騎士に守られるんだ。本物の騎士には守る相手が――貴婦人がいるもんなんだ。騎士は貴婦人の前で誓いの言葉を言うんだぞ。お、オレが騎士になったら――」
ベネディクトはなおも誓いの言葉を捧げるのがどうこうと続けていたけれど、その言葉は私の耳をかすめることもなく通り過ぎていった。
「誓いの言葉……」
自分でそう口にした途端、私の意識は遥か彼方へと落ちていく。
ああ――彼の、朝焼けをまとったような髪があまりに鮮やかで。
私を見上げる眼差しの、ブルーサファイアの瞳があまりに艶やかで。
よく通るその声は、とろけるように甘やかで――。
ああ、あの時――バシリオスが、私の護衛騎士に任命された日の記憶が溢れ出す。
『いまこの時より神の御許に呼び戻されるその時まで、
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