53 金玉のあいまいな態度に天罰テキメンのこと

「そなたらを我が屋敷に招待しよう」

 太上老君が杖をかかげると、さっと春風が吹いて、一行はたちまち朱塗りの豪華な屋敷の前に立っていた。


「さあ、遠慮するでない」

「ありがとうございます」

 金玉は招きに応えて、門をくぐっていった。


 さっきから太上老君は、金玉だけをじっと見つめて話を進めている。

 危機感を覚えた申陽は、なにか発言することにした。


「太上老君さま、私たちの手元には蟠桃ばんとうとすっぽん水晶があります。

 子授けには十分なのではありませんか?」


「一般的にはそうだろう。だが皇帝は荒淫にふけり、体が弱っている。

 子種をつくるどころではないわ。もっと劇的な薬が必要だ」


 太上老君は言いながら、朱塗りの回廊を進んでいく。


「それにもっといえば、照胎泉しょうたいせんの水は女性用で、男性の不妊には効かないのだ。

 もしそなたらがあのまま水を持ち帰っていても、何もならなかっただろう」


 太上老君は神通力によって、まるで話を読んできたようなことをいう。

 そして、ある一室に彼らを案内した。


「わあ、すごいや」

 そこは薬品庫で、壁一面に種々の薬品を入れた壺が並んでいた。

 漢方薬特有の変わった匂いがする。

 

蟠桃ばんとうの種とすっぽん水晶を砕き、ここから子種を増やす薬を選んで調合する、さらに――」


 太上老君は、金玉の肩をがしっとつかんでいった。


「そなたの精が必要だ」

「えっ?」


「そなたは、生まれてから一度も精を出してないのだろう?

 子授けのためには、聖童貞の初精が必要なのだ」


 金玉は恥ずかしがってうつむいた。

 西風大王が金玉をさらったのも、彼が聖童貞だったからだ。


「この壺に精を入れてもってまいれ。そうすれば、すぐに子授けの薬を作ってやろう」

「は、はい……」

 金玉は壺をもち、別室へと赴くのであった。


 *


「だから、おれが手伝ってやるといってるんだよ!」

「いやいや、貴公にそんな手間はかけられぬよ。ここは私が……」


 別室の入り口近くで、肝油と申陽が言い争っていた。


「だいたい! おれと金玉は唇を交わした仲なんだからな。もう契ったも同然だ」

「それくらいなら私もしているがな」


「いつだ! おまえが金玉に無体を働いた時か?」

「そうではない、その後だ」


「金玉はおれの胸に抱きついて『大好き!』といったんだぞ」

 それは確かにいっている。


「なに? 私はまだそんなことは言ってもらってないぞ! いつだ!」

「桃花村の桃が枯れ果てた日の朝だ!」


「……ん? どうもおかしいな」

 それから男二人は、金玉がいつどういう行動をとったのか、時系列順に語り合っていった。


 *


 金玉は別室で、壺を抱えて困惑していた。

 そこは医務室らしく、簡易な寝台と、小さな薬品棚が置かれていた。


「ねえ兎児くん、これってどうすればいいのかな?」

「ん~、適当にこすって出せばいいピョン。それをこの壺に入れるピョン」


 金玉は純潔教育を受けていて、さらには男なのに「男なんて」と思って過ごしていた。

 そちらの方面にはことに奥手なのだ。


「やってみる……」

 金玉は帯を解き、下着を外し、その薔薇色のそれにおずおずと指で触れ……。


「おーっと、つれないな。一人でお楽しみかよ」

「よし、まだ出してないみたいだな」

 肝油と申陽が、部屋にずかずか入ってきた。


「わっ! な、なんなんだよ!」

 金玉はとっさに下を隠した。


「――金玉! 君の精はとても大切なものだ。

 それがなければ帝は子どもをつくれず、いずれはこの国が没落して、再び戦乱の世に戻るやもしれぬ」

 申陽は厳粛な声で告げた。


「そうそう。おまえが精を出さなきゃ、この国はおしまいなんだぜ?」

「だ、だから?」


「おれたちが手伝ってやろうっての」

 肝油はいい、あやしい手つきでにじりよった。


「や、やめっ……」

「金玉! これはやむをえないことなんだ!」

 申陽はいい、金玉を背中からはがいじめにして、簡易ベッドの上につれこんだ。


「ちょっ、なに……このクソ猿! バカ!」


「よーし、そっちおさえてろよ」

 肝油は慣れた手つきで、金玉の下の衣をぜんぶはぎとった。

 うすめの草むらと、薔薇のつぼみがあらわになった。

 

「おめえ、二股かけるとはいい根性してるじゃねえか」

 肝油はいって、金玉のそれをピンとはじいた。


「やっ。ふ、二股だなんて……」

「肝油に大好きといい、私に手巾ハンカチをわたす。

 それが二股でなくてなんだというんだ?」


 申陽は金玉を背中から抱きしめたまま、その首筋に口づけを落としていく。

「そ、それはその……だめっ、くすぐったいよ」


 金玉はあいまいな態度ばかりとっていた!

 今、その報いがやってきたのである!


「そんなに二股かけたきゃあ、やってみろよ。二本いっぺんにぶちこまれたいか?」

「そんなんじゃない! ぼく、肝油は大好きですっごく感謝してるよ」


 ――助けてくれて感謝してるけど、どうしてだかやりたいって思えないんだ。


「私に手巾ハンカチを渡しておきながら、こいつとも戯れていたのか?」

「申陽さん、誤解しないで! 肝油とは体だけだから!」


 ――ぼく、申陽さんにならやらせてもいいと思ったんだ。でも、ちょっとこわい……ぼくの複雑な美少年心、わかってくれるよね?


 金玉は肝心なことを言わないせいで、ますます誤解されるのであった。 


「……お仕置きだな」

 金玉と肝油は口をそろえていった。



 天網恢恢てんもうかいかいにしてらさず!

 どんな悪事もいつかはバレるということだ!

 金玉は何かを漏らす必要があったが……。


 以下、次号!

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