婚約破棄された腹ペコ令嬢ですが、隣国の冷酷王子に溺愛されています
佐倉ロゼ
第1話:婚約破棄でいいのに追放されました
「婚約の
王太子ウィリアムが
クレアはそっと指輪を手にした。
「こんな安物いりませんわ!」
クレアはそう叫ぶと、大きく振りかぶって婚約指輪を思い切り床に投げ捨てた。
カツン!と鋭い音を立て、指輪が跳ねて床をコロコロと転がっていく。
今日はクレアとウィリアムの婚約発表会だ。
会場に詰めかけた、王族や貴族、高級官僚たちが、クレアの突然の暴挙に息を呑むのがわかる。
百人以上はいる会場に、張り詰めた沈黙が流れた。
(ど、どう? 皆の前で恥をかかせてみたけど……)
クレアは動揺しているのを気付かれないように、できるだけ傲慢な表情をしてウィリアムを見た。
(お願い! こんなわがままな女、ふわさしくないって婚約破棄をして!)
クレアは祈るように、硬直しているウィリアムを見つめた。
青ざめたウィリアムの顔に、少しずつ赤みが差していく。
「ふざけるな……!」
(そ、そうよね! 怒るわよね!)
「王族に対し、こんな不敬を働くなどと……!」
(うん、屈辱よね!)
わなわなと体を震わせるウィリアムを、クレアは期待を込めて見つめる。
(お願い、言って!)
「クレア・ネルソン侯爵令嬢! そなたとの婚約を破棄する!」
ウィリアムが高らかに宣言し、会場がどよめいた。
クレアはホッと肩を下ろした。
(やった……婚約破棄されたわ。これで死なずに済む……)
安堵がクレアを包んだ。
クレアがこれほどまでに王太子との婚約破棄を切望したのは訳があった。
実は、クレアは前世で王太子暗殺の
本来なら、クレアはもうこの世にいない。
だが、クレアは奇跡的に死に戻ってしまった。
気付いたら、社交界デビューのパーティーに出席している時に戻っていたのだ。
デビューパーティーでクレアは王太子であるウィリアムに見初められ、婚約者となった。
田舎貴族の娘としては、考え
有頂天だったあの頃に戻ったクレアは愕然とした。
(そうだ、ここから私の運命は激変したんだ!)
ただの夢とは思えない、鮮烈で恐ろしい前世の記憶がクレアを
(私を妬んだ誰かが、濡れ
ぽっと出の田舎令嬢が、王太子の心をあっさり射止めたのだ。
クレアを邪魔者だと思う者は大勢いたのは想像に
処刑の瞬間の恐怖と悔しさが、まざまざと思い出される。
(夢にしては鮮明すぎる……。あの恐怖と絶望は実際体験したものだわ……)
思い出すたびに体が震え、全身が凍ったかのように冷たくなる。
(もう二度と、あんな恐ろしい目に遭いたくない……!)
(せっかく死に戻ったのだから、新しい穏やかな人生を歩みたい!)
そこで、クレアは一計を案じることにした。
(王太子と婚約さえしなければ、私は死なない!)
クレアの長所は素直で馬鹿正直な所だ。
腹芸や策謀の才能はない。
だから、シンプルにウィリアムに皆の前で恥をかかせ、嫌われてしまえばいいと考えた。
それが、『もらった婚約指輪を投げ捨てる』だ。
わかりやすく結果が出て、クレアはホッとした。
(実家のお父様たちにはめちゃめちゃ怒られるだろうけど、さっさと田舎に帰って王宮とは縁を切ろう……)
そうすれば、処刑されることなどないだろう。
クレアはわなわなと震えるウィリアムを見つめた。
(無事に婚約破棄されたことだし、気が変わらないうちに帰ろう……)
だが、事態は思ったよりも深刻だった。
ウィリアムが怒りに任せて宣言したのだ。
「クレア・ネルソン侯爵令嬢を王族に対する『不敬罪』で国外追放にする!」
「えっ」
さっさとこの場を離れようとしたクレアは耳を疑った。
(国外追放……?)
「皆の者、異論はないな? クレア、今すぐこの国を立ち去るがいい!」
ウィリアムの声が朗々と会場に響き渡る。
「えええええええ!?」
クレアは呆然と立ち尽くした。
(ちょっと待って! 婚約破棄でいいのよ! 国外追放までしなくても!)
これでは、田舎に帰ってのんびり暮らすという計画がおじゃんだ。
「ちょっと待ってください、ウィリアム様!」
「黙れ! 貴様の顔など二度と見たくない!」
怒り心頭のウィリアムは、取り付く島もなかった。
(やり過ぎた!!)
呆然とするが、時既に遅し。
「出て行かぬなら、衛兵につまみ出させるぞ!」
(う、嘘……)
クレアはよろよろと後ずさりした。
(国を追放だなんて……私、どこに行けば……)
処刑は免れたものの、これでは
(やっぱり、死の運命からは逃れられないの!?)
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