第17話 財宝のありか⑦
今のこの状況に対して、僕は少し、疑問だった。
僕が描いた絵では、白い崖の前に瓦礫が積み重なっていたのだ。
崖に裂け目などなければ、裂け目の上に装飾もない。つまり“今”の風景を描いたものではないことは明白。
では、過去の絵かと言えば、それもまた大きな矛盾がある。地元の人間はこの場所を『白壁』と呼んだ。文字通り白い崖が壁のように見えたからこその命名だろう。
けれど僕の絵の印象を、そのまま言葉にするのなら、一番適当な表現は『白い瓦礫』だ。壁よりも瓦礫の方が目立っている。
つまり、いつかは分からないけれど、“この先”で起こりうる風景の可能性は否定できない。
そして裂け目は落雷の影響で現れたと言う。雷が鳴るほどだ、天候も荒れたのだろう。なら今、崖の地盤がかなり不安定になっているんじゃないのかな?
そう考えていたら、地面からカタカタと震えるような振動が。
「揺れている……?」
その場にいる全員が怪訝な顔をした直後、そのうちの一人が崖のほうを指差し、叫んだ!
「崩れる! 崩れるぞ!!」
おそらく、あの白壁はもう、内部がボロボロだったのだ。雷の衝撃で崩落するほどに。いや、今も人知れず崩壊が進んでいたとしたら。或いは遺跡の中に入った人たちが、何らかの衝撃を与えたのかも知れない。そして、一気に限界が来た。
僕らがなす術もなく、眺めるしかない中で一気に崩れ、瓦礫の山が裂け目を隠してゆく。
少しして巻き上がった土埃が落ち着くと、そこには僕が描いた絵と同じ風景が佇んでいたのである。
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突然の出来事に、唖然としたまま固まっている面々。そのままでは埒があかないので、僕はパンと手を叩く。
ゆるゆると僕へと集まる視線。
「ぼんやりしている場合じゃないでしょ? すぐに瓦礫を片付けて、助けてあげないと!」
僕に言われてもなお、状況を理解できずに固まったままのゴルドー商会の傭兵達。それらを一喝したのは、最初に我に帰ったワイズだった。
「馬鹿者! すぐに武器を捨てよ! 皆で救出に向かうぞ!! 瓦礫を取り除く者、運ぶ者に分かれよ!! 急げ!!」
ワイズの怒声に皆が一斉に動き出す。さすが大商会の会長だけあり、いざという時の判断力、統率力は素晴らしい。
闇雲に瓦礫に触れようとすると、「そうではない! もっと効率よくやれ! 時間との戦いだぞ」と叱咤しながら、除去する瓦礫を指示して回る。
「早く救出できれば皆助かるかもしれん! そこ! 手を抜くな!」
完全に救出作戦の中心に座ったワイズの的確な指示によって、次々と取り払われていく瓦礫。僕やレルタとセレネも、微力ながら瓦礫を運ぶお手伝だ。
瓦礫は軽石のような素材なのか、見た目よりもかなり軽い。スカスカした石だから、こうも簡単に崩れたのか。そもそもこれは天然の石なのかな? 軽くて簡単に崩せる石が遺跡を隠していた。それではまるで、人工的に作られた蓋ではないか。
もしかすると、この白壁もオルトゥナ文明の遺産なのかもしれない。だとすれば、一つの遺跡を丸々覆い隠せるほどの技術も含めて、大したものだと思う。
仮にこれが人工物であるのなら、どうしてわざわざ遺跡を隠したのだろうか? 当時は遺跡ではなく、何か重要な施設だったはずなのに。
まあ、
それにしても綺麗な白だ。一つ拝借して、ようく潰して顔料にしてみようかな。他にはない白い色が表現できそうな気がする。
ともかくまずは人命救助が最優先。一つ一つの瓦礫が思ったよりも軽いと言っても、分量がすごい。結局どうにか再び裂け目が現れ始めるまでに、三刻近い時間を要した。僕の腰がめりめりと悲鳴を上げている。運動不足だなぁ。
「ゴルドー様! ご無事ですか!? ゴルドー様!!」
辺りがすっかり暗くなった中で、裂け目の向こうへ取り残されたゴルドーたちを呼ぶ声が響く。それから少しして、ようやく向こうから反応があった。
「いたぞ!! 無事だ! 無事だぞ!」
助け出すために裂け目に入っていたゴルドーの部下の叫び声に、僕らは敵味方関係なく、近くにいた人たちと手を叩き合ったり、抱き合ったりしたのである。
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救出されたゴルドーたちは憔悴し切った感じだった。遺跡内では落石もあり、数名が骨折などの怪我を負っていたけれど、幸いにも死者はなし。
ゴルドーたちを助け出した後、程なくして白壁の向こう側で何かが崩れる音がしたので、多分、遺跡が崩壊したのだろう。危ないところだった。
すっかり毒気を抜かれたゴルドー。立場は完全に逆転だ。ワイズはへたり込んだゴルドーを見下ろしながら、「後で救出料は請求させてもらうぞ」と、守銭奴らしいことを言う。
ゴルドーからの反論はなく、なんとなく決着がついた感じ。
「レルタ、セレネ、そろそろ行こうか?」
僕がそっと二人に伝えると、すでに予測していたのだろう。特に確認することなく、「「はい」」と答えてくれる。
そうして僕らは、焚き火が照らす安堵感漂う空間から、静かに暗闇の中へと溶けてゆく。
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「お、きたきた。もう出発するのか?」
誰にも気づかれずに離れてきたはず。
なのに、なぜか僕らの馬車には、当然のようにノックスが乗っていたのである。
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