第16話 財宝のありか⑥
僕らの倍以上の人数の、“いかにも”な者達が僕らを取り囲む。完全に包囲されて、逃げ道はなさそうだ。
「誰だ貴様らは!」
ワイズの怒声に、そいつらは粗野な笑いを返してくるだけ。まあ、この状況を客観的に見れば、どちらが優位なのかは明白だ。彼らの余裕も良く分かる。
そのような中で、一番最後にもったいぶって現れた人物。
その人を確認した瞬間に、「ゴルドー!! 貴様がなぜここに!」と、ワイズが叫んだ。
どこかで聞いたことのある名前だなと思い、僕は己の記憶を探る。そうだ、ワイズの率いるロックボーン商会と、敵対中の商会の名前がゴルドーだ。
ゴルドーはクククと笑いながら、「これはこれは、ワイズ=ロックボーン殿。こんなところで奇遇ですな」などと
今にも飛びかからんばかりのワイズを。それを配下がどうにか押し留めると、その姿勢のままワイズが言葉を吐き捨てる。
「奇遇? そんな訳があるまい。貴様、我々をつけてきたな。相変わらずソブラムのような意地汚さよ」
「なんとでも言うが良い。それで、財宝というのはその洞窟の中にあるのか?」
ゴルドーが白壁にある亀裂を指差し、ワイズがぎりりと奥歯を鳴らす。
「……貴様がなぜそのことを知っている?」
「さあて、なぜかな? 親切な犬が手紙を届けてくれたのかもしれんなぁ」
「我が方に、裏切り者がいるのか……」
睨み合うゴルドーとワイズ。
この緊迫した状況の中で申し訳ないのだけど、僕はすぐそばにいるノックスの肩を叩く。ノックスが迷惑そうにこちらを向いた。
「なんだ? 恐ろしいなら手を頭に置いてしゃがんでいろ。戦う意志のない奴には、あちらさんも手を出しはしねえと思う」
「あ、違う違う。今の会話に出てきた“ソブラム”ってなに? 動物?」
僕の率直な質問に対して、なんとも言えない表情をするノックス。
「ちょ、それ、今か? 今聞く事か? 周りを敵に囲まれているんだぞ?」
「そうだね。困ったものだよ。でも気になるな……初めて聞く単語だもの」
「……お前、やっぱおかしいわ。拉致られても平然としているし。この状況で、ソブラムが知りたいとか……」
「そうは言っても気になるじゃないか。ソブラムがなんなのか知らないから、会話の意味が分からない」
「ソブラムってのは、屍肉を漁る動物だよ。犬と狼の中間くらいの大きさで、鳴き方がちょっと変わってる」
「へー。一度見てみたいね。その変わった鳴き声っていうのも気になる」
「……本当に今、どういう状況なのか分かってんのか?」
「敵らしき人達に囲まれている」
僕は邪魔にならないように話をしていたつもりだったけれど、気がつけばその場にいる全員の視線が、僕らに向けられていた。誰しも、怪訝な顔をしている。
結果的に水を差された形になったゴルドーが、少し身体を引いて、つまらなさそうに鼻を鳴らす。
「妙なやつが混じっているな。それにメイド? ワイズ、貴様も好きものよな。このようなところまでメイド連れとは」
「なっ! 私のメイドではないわ! 貴様と一緒にするな!」
「隠さずとも良い。さて、無駄話はここまでだ。私は寛大だからな。貴様に選ばせてやろう。そこの財宝を丸ごと我がゴルドー商会に譲るのならば、貴様らの命くらいは助けてやる。断るなら、納得いくまで私の部下と“遊んで”貰う事になる。どうするかね?」
「ぐぬぬ……ゴルドー!!」
悔しそうなワイズだったけれど、多勢に無勢。どうしようもないと判断したのか、握っていた手のひらをゆっくりと開いた。それを合図に、ワイズの配下は武器を捨てる。
その間にざっと数えてみると、敵の人数は46人いた。こちらは18人。ま、賢明な判断だと思う。
勝ち誇ったゴルドーは一度高笑いをすると、
「おい、何人か行って中を確認して来い。中に財宝などなかったら、その時は財宝分の費用をワイズに支払ってもらうとしよう」
と命じて、また笑う。ワイズはゴルドーを睨みつけたまま、微動だにしない。
ゴルドーの指示により、5人の配下が松明を持って裂け目の中に入ってゆく。それからしばらく、僕らはゴルドー商会に囲まれたまま時が過ぎてゆく。
半刻ほどが経過した頃、裂け目から息せき切って、配下の一人が飛び出してきた。
「ゴルドー様! すげえ! すげえ財宝があります! こりゃあすげえ!」
興奮しているのか、元々語彙力がないのか、ひたすらにすげえを連発する。とにかくすごい財宝があったらしい。
報告を聞いたゴルドーは満足げに頷くと、ワイズを見てニヤリと笑った。
「よし。せっかくの機会だ、私も直接拝んでやろう。おい、ワイズ、妙な気を起こすなよ。10人ほど私についてこい。残りはこやつらを見張っておけ! 武器を拾うような真似をすれば、殺してもかまわん!」
意気揚々と遺跡へ入ってゆくゴルドーの背中を見送っていると、ノックスが「本当に財宝あるのかよ……もったいない……」と呟くのが聞こえた。
だから僕は、
「そうかな?」
と、聞こえるか聞こえないか分からない程度に返しておいた。
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