第15話 財宝のありか⑤
僕が絵が描いたと聞いて、ワイズが再びやってきたのは翌日の夕方の事。
描き切るのに明け方までかかった。先程まで寝ていて、少し寝ぼけまなこの僕を一瞥するワイズ。
それからゆっくりと、絵に視線を移して「これが財宝のありかか?」と呟く。
「さあ? どうだろうね?」
「なに? ではなんのために描いたのだ」
それは僕にも分からない。ただ、浮かんだものを描いただけなのだから。
「そもそも、これは一体どこの絵だ?」
ワイズは腕を組んで、首を傾げる。その絵にあるのはどこかの崖。特徴としては、崖が全体的に白い事だろうか。
崖の中央には瓦礫が積み重なり、見つめる人々の背中が描かれている。それだけの簡素な絵だ。他には何もない。描いた本人が言うのもなんだけど、なんだろう、これ?
「ワイズ様、そこの瓦礫に隠れた部分に、オルトゥナの遺跡があるのではないですか?」
ワイズの側近と思しき人が、瓦礫の部分を指差しながら指摘すると、ワイズは腕を組んだまま「むむむ」と唸る。
「……ありえなくはないが、いずれにせよ、この絵はどこを描いたものだ?」
僕も分からないと伝えると、ワイズは小さく舌打ち。
続いて取り巻きに「このような白い崖に、心当たりのある者はいるか?」と質問。けれど
「……とにかく、この絵は預かっておく。絵の場所が確認できるまで、貴様らには屋敷に滞在してもらうぞ」
前回やってきた時と同様に、言いたいことだけ言って去ってゆくワイズ。せっかちだなぁ。
しかし幸いな事に、絵の場所はすぐに判明した。雇い入れた傭兵の一人が、この場所を知っていたのだ。『地元にある白壁と呼ばれる場所だと思う』と。
翌朝、再び僕らの元へとやってきたワイズは「準備を整えたら、明後日には現地へ向かう。貴様らも同行せよ」と、有無を言わさず宣言するのだった。
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隊列を組んだ商会の者たちが、目的の白壁へと進む。5日ほどの行程らしい。
僕とレルタ、セレネは、自分たちの馬車の中でのんびりしていた。僕らの馬車を操っているのはノックスだ。僕らが逃げないように、御者を命じられていた。
旅人としては、気ままに進めないのは小さなストレスだ。僕は暇つぶしにノックスに声をかける。
「その白壁って有名な場所なの?」
「自分で描いたんだろ? なんで知らないんだよ……」
「仕方ないじゃないか。知らないものは知らないんだから」
「……聞いた限りじゃあ、有名な場所ってわけじゃねえ。近くの村の出身のやつの話だと、白壁の周りにあるのは雑木林くらいなもんだ。確かに見た目は少し物珍しいが、一度見れば十分って代物だと」
「ふーん。そういえば、ワイズはわざわざ同行するんだね」
大きな商会なのだから、部下に任せれば良いのに。
「“さん”をつけろよ。大商会の会長様だぞ?」
「別に僕の雇い主ではないからね」
「そりゃあまあ、そうか……まあいい、あの人は単に財宝とか、遺跡とか、そういうのが好きなんだよ」
「商会の会長なのに? 子供みたいだなぁ」
「元々冒険家を名乗って、各地を放浪していたようだ。その時に貯めた金で、商売を始めたとか耳にした」
冒険家、ねえ。大抵の場合、それは盗賊の類だ。まして遺跡に執着しているのは、過去に成功体験があるからかな。なら、若い頃は盗掘を生業にしていたのかもしれない。
「あ、ちょっと良さげな風景だ。少し立ち止まって楽しんで良いかな?」
「……勘弁してくれ。大人しく座ってろよ……」
そんな風にノックスをからかいながら、僕らはようやく白壁まで到着したのである。
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「これは、一体……」
白壁には大きな裂け目ができている。裂け目の先端には、人工物としか思えない、彫刻の跡があらわになっていた。
見た感じかなり古いものだ。元は何かの顔が彫られていたのだろう。今はその輪郭のみがかろうじて残っている。
さして見るべきものもない白い崖という事前の話とは、かけ離れた風景だ。
「ギーニー、ここで間違いないのか」
ワイズに呼ばれて慌てて近づいてきたのは、白壁の情報をもたらした傭兵。
「ま、間違いねえんですが……昔はこんなんじゃなかったです……」
ギーニーも何が起きているのか分からずに、目を丸くしたまま答えている。
「すぐにお前の村で、最近何か異変があったのか聞いてこい。内部を確認するのはそれからだ」
「へ、へい! すぐに」
村に走って行ったギーニーは、一刻ほどで戻ってくる。
「数日前にこの辺りに雷が落ちたそうです。かなり大きかったらしく、集落の家も揺れるほどだったとか」
「落雷の衝撃で、遺跡を隠していた崖が崩れたか……よし、では調査に……」
ワイズが宣言しかけたその時だ。
雑木林から、「そこまでだ。案内、ご苦労だったな」と言いながら、武器を持った奴らがゾロゾロと現れたのは。
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