第14話 財宝のありか④

ーーー近々、戦争になるーーー


 穏やかではない言葉を力強く宣言したワイズ。


 しかし彼は商人のはずで、傭兵を集める必要など、どこにも無いように思う。もしかして、傭兵派遣業でも始めるのだろうか。


 僕の疑問をそのままぶつけると、ワイズは「そうではない」と首を振る。


「戦うのは我が商会最大の敵、ゴルドー商会である」


 どういうことかと詳しく聞けば、大手商会の縄張り争いらしい。


 双方強引な手腕でのし上がってきた同士、ついに商圏が被り始め、各所で諍いが起こっているのだという。


「それにしたって、武力行使は乱暴なんじゃ」


「先に手を出してきたのはゴルドー商会の方だ。我々の商団を襲いおった。あやつらは傭兵崩れをかき集め、多くの商家を力で黙らせるという、商人の風上にもおけぬ者共よ。かような愚か者に屈しはせぬ」


 言っている事はなかなかにご立派だけど、ワイズ率いるロックボーン商会も悪徳と聞いた。なら、五十歩百歩な気もしなくもない。そもそも僕だって、ここに半ば拉致に近い形で連れてこられたし。


 僕が何か言いたげなのを察したのであろう。ワイズはこほんと咳払い。


「お前たちは幸運である。ゴルドー商会に目をつけられていれば、遺跡の情報を全て吐き出すまで、拷問が行われていたに違いないのだ」と脅してきた。


 けれどもしもワイズが力尽くに出るのなら、僕らも同じ手段を取るだけ。その程度の話、震える必要もない。


 脅し文句が僕らには効果がないと断じると、今度は買取金額を釣り上げようと提案してくる。


 宥めすかされようと、僕らはオルトゥナ文明とかいう遺跡の情報など何も持ってはいない。改めてそのように伝えても、ワイズは簡単に納得しない。


「いや、お前達からは何か金の匂いがする。長年培ったこのワイズの嗅覚がそのように言っている。数日猶予をやるから、その間に決めよ。どうしても話す気にならぬのなら、その時は地下牢に放り込むゆえそのつもりでな。ノックス、引き続き見張っておれ」


 言いたい事だけ言って、部屋を出てゆくワイズ。部屋には僕らと、見張り役のノックスだけが取り残される。


 完全に足音が消えるのを待ってから、ノックスは、「……逃げるんなら、俺のいない時にやってくれよ」としみじみ口にするのだった。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 ワイズがやってきた、その日の夕方。


 僕らはまだ部屋でダラダラしていた。逃げようと思えばいつでも逃げられる。見張りはこんなだし。仮にやる気があったとしても、僕らにはあまり影響がないのだけど。


 と、僕はふと気になったことがあり、暇を持て余して、ぼんやりと天井を見つめていたノックスへ声をかける。


「商人同士の諍いとはいえ、武力衝突ともなれば王様なんかが黙っていないと思うのだけど、大丈夫なのかい?」


 この国に足を踏み入れてから今の所、国の治安はそこまで悪くないように感じた。商人同士が傭兵を雇い、剣を取り合うような事態はさすがに異常事態だ、王の耳にも届くだろう。そうなれば、土地を任された領主なりが放置するとは思えない。


「あー、まあ、王は優秀のお方ではあるんだが……ちょっと今は無理だろうな」


「今は無理?」


「王位継承で少々揉めてんだ。おかげで中央は大混乱と聞く。だから今は、地方の諍い目を配っている余裕なんかないのさ。貴族連中もな。だから色んなところで、色んなやつが好き勝手始めている。このまま王位争いが長引けば、荒れるかもな。この国」


「へえ」


 それは初耳。一見平穏そうに見えても色々あるんだな。ノックスは小さく首を振りながら、やれやれとため息をついた。


「やっと決まった就職先だが……あんまり酷くなるようなら、別の国に行った方がいいかもしれねえなぁ……」


「ノックスはこの国の出身じゃないの? 実家は?」


「祖国だが、頼れる身寄りはもういない。いればこんな仕事してない」


 それもそうか。僕が妙に納得していると、ノックスは椅子から立ち上がって伸びをする。


「ま、あんたら旅人には関係のねえ話だ。変な意地を張らずに、嘘でもいいから適当なこと言ってさっさとおさらばしたほうがいいいぞ。……腹減ったな。そろそろ飯を取ってくる」


 そんな言葉を残して、部屋を出てゆく。


「フェルメ様、どう致しましょう?」

「別の国に行くか?」


 僕とノックスのやり取りを黙って聞いていたレルタとセレネが、久しぶりに口を開いた。


「うーん。そうだねぇ。国が荒れるにしても少し先の事になりそうだし。せっかく訪れたから、まだこの国を巡ってみたい気持ちもあるね」


「私たちはそれでも構いませんが」

「いずれにせよ、この館にいる必要はない」


 これは二人とも、現状に飽きてきたかな。2日近く部屋に軟禁されているからなぁ。


 強引に連れて来られたとはいえ、ご飯もちゃんと出るし、一応、紳士的な対応はされているので、僕としてはあまり血を見るような結果にはしたくないのだけど。


「……ま、とにかく、ノックスの持ってくるご飯を食べてから決めようかな」


「「かしこまりました」」


 そんな会話をしてしばらくすると、ノックスが鼻腔をくすぐる香りのスープやパンを持って、部屋へと戻ってくる。


 レルタとセレネも手伝って、テキパキと夕食の準備が進められる。その様を見たノックスが、少し感心したように声を上げる。


「あんたら、随分と手慣れているな。まるで本物のメイドみたいだ」


「そうですか?」

「黙ってろ」


 否定とも肯定とも取れる双子の返事に、ノックスは苦笑。


「……食えねえ奴らだな」


 まあともかく、今日の夕食は美味しかった。流石に大きな商家だけあって、腕の良い料理人を雇っているらしい。


 そしてその夜。


 僕はなんだか絵を描きたい気持ちになったので、月明かりの下でゆっくりと絵筆を手に取った。


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