第13話 財宝のありか③
財宝のありかを知ると勘違いされ、僕らは軟禁されたらしい。
けれども残念ながら、いくら問い詰められようと、ノックス達が期待するようなものは何も持っていない。
そう正直に伝える僕に、ノックスは困った顔をする。
それから「本当か? なんかあんだろ?」と、何度か確認した後、最終的に諦めて『会長に報告してくる』と言い、僕らを残して部屋を出ていった。
僕が言うことではないけれど、見張りとしてどうかと思う。
まあいいや。今日はせっかくだから、柔らかいベッドで眠ることにしよう。さすが大きな商会のお屋敷だ。おいてある家具は一級品。その晩僕らは、快適な眠りを堪能したのである。
翌朝僕らが目覚めた頃に、朝食を持って戻ってきたノックス。解放するつもりは無いようで、そのまましばらく雑談をして時間を潰す。
「ノックスはどうしてロックボーン商会に入ったの?」
「そりゃ簡単な話だ。この見た目だからな。他に適当な仕事がなかったし、給金が良かった」
ノックスは答えながら、自らの左目を指差した。聞けば、戦いの混乱の中で矢が左目に突き刺さったのだと言う。もう慣れたものなのか、ノックスは「運がなかった」と笑う。
「御者なのに給金がいいんだ?」
「昨日も言ったが、俺は御者として雇われたわけじゃない。どちらかといえば用心棒に近い」
改めて思い返してみれば、昨日囲まれたときの面々は到底商人に見えない風貌だった。
いずれも腕っぷしを買われて雇われたのかな。だとしたら、随分と周囲を警戒している。ノックスが“アコギな商売”と言っていたから、方々で恨みでも買っているのだろうか。
「俺の事はいい。フェルメはどうして旅を?」
「さぁて、どうしてなんだろうね」
「ちっ。簡単に話しちゃくれないか」
時間を無為に浪費して、ようやく動きがあったのは昼前のこと。ロックボーン商会の会長、ワイズ=ロックボーンが部屋にやってきた。
最初は目立つ装飾ばかりが気になったけれど、鋭い目つきと鷲鼻が特徴的な御仁で、やり手の雰囲気はある。
けれど、商人という感じはあまりしない。それこそ、ならず者のまとめ役でもやっていた方が似合いそうだ。
ワイズは部屋に入ってくるなり開口一番、「財宝のありかについて、描く気になったか?」と言う。
「昨日も伝えたけど、そもそも僕は財宝のありかなんか知らないけれど?」
「ふん。報告を受けた。だが嘘は言うな。お前らは、オルトゥナ文明を記す何かを持っている。それらを全て寄越せとは言わん。私にも一枚噛ませればそれで良い。金も払うのだから、貴様らにとっても悪い話ではあるまい」
「オルト……何だって?」
聞き慣れぬ言葉に首を傾げる僕に、ワイズは不快そうに鼻を鳴らした。
「何を白々……いや、貴様らはこの国の人間ではないという話だったな。もしかしてオルトゥナ文明のことを知らずに、偶然古文書か何かを手に入れたのか?」
「何度聞かれても何も持っていないし、オルトゥナ文明って言葉も初耳だよ。そもそもどうして僕らがそんな物を持っていると? あなたが持っている遺跡の絵は、偶然の産物かもしれないよ?」
「オルトゥナ文明は、太古の昔、この国で栄えたという伝説の残る文明の名だ。我が国では、時折オルトゥナ文明のものと思しき遺跡が発見される。この文明の大きな特徴は、権威の象徴として多くの宝石を溜め込んだことにある」
なるほど。そのオルトゥナ文明とかいう存在は分かった。けれど、僕らがその文明のことを知っているという裏付けは何もない。
改めてそのように説明したけれど、ワイズは「ふん、だまされんよ」と、僕の言葉を否定。
「貴様らは金を持っている。その身なりを見れば明白だ。従者の衣服も、貴族でもなければ使わぬような上等な仕立てである」
流石、商人というだけあって、品物を見る目は確かみたい。
「でも、僕がどこかの貴族の子息で、道楽で絵を描きながら漫遊しているかもしれないでしょ?」
「それは有り得んな。メイド二人しか連れずに、他国をうろうろするような貴族の子息などおらん」
……鋭い指摘だなぁ。それを言われると反論しづらい。というか、説明が面倒くさい。
僕の沈黙を、正鵠を射たと判断したのだろう。ワイズはふふん、と少し機嫌良さそうにしながら続ける。
「つまりお前たちは、行く先々で下賎の者と侮られぬために、衣装を用いて“貴族ごっこ”をしているのではないか? 別にそれを咎めるつもりはない。むしろ、なかなか上手い手段だと思う。しかし同時に、その上等な衣服はどこで手に入れたのかという疑問が浮かび上がる。ただの旅人が、容易に買えるものではないからな。つまり、どこかに金の出所がある」
「それが遺跡の財宝だと?」
「他に何がある? 説明できるのであればしてもらおうではないか」
「でもその話には矛盾がある。財宝のありかを知っているなら、絵を残した村で財宝を捨て置く必要がない」
「それもまた、説明できる。なんでも、あの村では貴重な顔料を買い求めたらしいな。しかも割安で」
よく情報を集めているものだなぁ。ワイズが言う通り、あの村では色々と良くして貰ったから、お礼の意味も込めて絵をあげた。
ワイズはますます上機嫌になり、畳み掛けてくる。
「つまり貴様らは村に財宝をくれてやっても良いと思う程度に、金に困っていない。あるいは、“他に金を手にいれる場所”を知っている。どうだ、完璧だろう」
……勘違いも甚だしいけれど、意外に良くできた筋書きではある。
でもなぜそこまで、財宝に固執するのだろうか?
大きなお屋敷に住んで、新しく人を雇える程度には商売もうまくいっているのなら、財宝なんて不確かなものにこだわる必要はないと思うのだけど。
僕は疑問をそのままぶつける。すると、ワイズはぎりりと奥歯を噛み、それから拳を握ってから、
「今は、すぐに金にできる財宝はとりわけ有用だ。早急に、より多くの傭兵を雇う必要があるからな」
「命でも狙われているの?」
「いや、近々戦争が始まるからだ!」
随分と、話の雲行きが怪しくなってきたなぁ……。
力強く宣言するワイズを見ながら、僕は小さくため息をついた。
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