35.なんて無茶な
***
ミズルチが作りあげた、虹色の宝石の
「どういうことだ?」
問いかけたバッソに、カイトは、泣きそうな顔をむけた。
「あれ、脱皮のための殻なんだよ。〈
理解したバッソが、はっとした顔を
バッソが、「ああ」と苦しい声をあげた。「あれは、ウタマクラを助けるために、ミズルチは、わざと早く脱皮しようとしていると、そういうことか――なんて無茶な」
しかし、こうしないとウタマクラを助けられないのは、カイトにだってわかる。それに、あれはきっと、ミズルチ自身も助かるために必要だった。それくらい、ふたりの
と、次の瞬間だった。怨墨の本体が、「きええええええっ!」と、すさまじい奇声をあげた。その全身から、これまでの比ではない、すさまじい墨の柱が、天をもつらぬく勢いで、立ちのぼる! それが、ミズルチの
「だめだ!」
かけだしたのは、カイトとバッソ同時だった。ふたりとも、あれに敵うとは思っていなかった。ただ必死だった。なかにいるふたりを助けたくて、無我夢中だった。
「カイトさん!」
湯葉先生の大声にふり返る。シネラマを地面に、放りだすと、湯葉先生は、自分のカバンを、カイトにむけて投げた。それを、ぎりぎりで、落とさずに受けとめる。
「使いなさい! 残りの鉄砲は、八だ!」
「ありがとう! 湯葉先生!」
カイトはバッソのあとに続いた。残りはたった八。大事に使わないといけない。でも、あんな大きなものをどうやって? と不安で心がふるえる。それでもやるしかない、行くしかない、見通しなんか立たなくたって、勝算なんかなくたって、今動くしかないんだ!
ばあん! ばあん! 襲いかかってきた墨を、両手の一本ずつで吸いあげる。次の二本も
ばりばりばりん! と、まるで雷鳴のような、空気の、さける音がした。
はっとして、カイトは顔を、つぼみへむけた。
割れるように、はがれるように、もとは
それは、見知らぬ天使のような女の子だったけど、カイトは、その翼を知っている。
「ミズルチ!」
一瞬、女の子が、ちらっとカイトを見て、にこっと笑った。それからもう、わき目もふらず、するどい顔で怨墨本体へむけて、つっこんで行った。
続いて、割れたつぼみのなかから、黒いかたまりがひとつ、こぼれ落ちた。それは地面に落ちてしまう前に、宙高く飛びあがったバッソによって、しっかりと抱きとめられた。
苦しそうに、ゆがめた顔で、バッソが受けとめたのは、ウタマクラだった。
「よかった……! ほんとうに、離してすまなかった……!」
しぼりだすような、バッソの言葉に、ウタマクラは言葉もなく、ただぽろぽろと泣いた。バッソの首に、しがみつきながら、うん、うん、と、何度も、うなずいていた。
その、ふたりのようすを確認してから、カイトは、ミズルチのあとを追った。
自分は、ミズルチを助けるんだ。今度こそ。
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