かくれんぼ(?)

水月 梨沙

それは、私がショッピングモールへ行った時のことです。

人々で賑わう館内を歩いていると、遠くから子ども達の笑い声が聞こえてきました。きっと親の買い物に飽きて、遊んでいたのでしょう。

「い〜ち、に〜い、さ〜ん……」

他にもお客さんはいるのに大きな声で遊ぶ子ども達へ、私は内心では快く思っていませんでした。

「も〜ぅい〜いか〜い」

「まぁ〜だ〜だよ〜」

どうやら、かくれんぼをしているらしかったです。確かに、大人の洋服の間だとかは隠れるのに丁度良いのかもしれません。

そんな事をぼんやりと考えながら、私は気になった服を見つけて試着室に入りました。


試着室の中は少しだけ、外の喧騒とは切り離された静寂がありました。その静けさの中で私が着替えようとしていると、隣の試着室から突然ノックをされました。

(どうして扉からでは無くて、隣から……?)

私が不思議に思って首を傾げていると、続けて小さな声が聞こえました。


「ねえ、開けて……」


それは、子どもの声でした。ですから、きっとさっきのかくれんぼをしていた子どもが、隣の試着室に隠れているのだろうと思いました。

けれど、私は試着の途中です。それに、わざわざ開けて中に入れるなんて事はしたくありませんでした。

そこで私は、その子どもの声を無視することにしました。


それでも、その声はやみませんでした。


「開けて、開けてよ……」


だんだんと、その声は切迫してきました。


「ねえ、お願い……!」


その時、丁度私は試着を終えたので、外に出ようとしました。

すると再び、声が聞こえたのです。


「みぃ〜つけた……」


その声は、別の子どもの声でした。しかも、なんだか喜びに満ちているような……。


私は試着室を出ました。

けれど外に出てみると、誰もいませんでした。子ども達の笑い声も、かくれんぼをしている姿も、どこにも見当たりません。


ただ、私の入っていた試着室の隣の扉は閉まっていました。

(もしかして、そこから出られなかったのかな?)

そう、一瞬思いましたが、試着室は内開きの扉です。

そもそもそこには、大人用の靴が脱いでありました。


あの声がどこから聞こえてきたのか、誰だったのか。よく分からないままでしたが、私は気にしない事にしてその場を後にしました。


それ以来、ショッピングモールの試着室に入ると、あの子どもの声が頭をよぎります。

隣の試着室、かくれんぼの様なやり取り、開けて欲しがっていた子ども、見えない姿。

そう、私は一度も子ども達の姿を見ていなかったのです。

もしかしたら、今もどこかで「開けて」と囁く声が聞こえているのかもしれません。

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かくれんぼ(?) 水月 梨沙 @eaulune

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