第121話 変わらぬ想いとオーバーキル⑩

 LDR(陣痛から分娩、産後の回復までを行う部屋)から新生児室前へと来た虎太くん。

 匠刀のプロポーズ発言に物言いをしてくれた。


「新生児を目の当たりにして高揚すんのは分かるけど、モモちゃんにとったら一生に一度の大事なことなんだから、ちゃんと場所とかムードとか考えてやらなきゃ」

「……うっせーな」

「言っとくけどな、俺なんて100回以上断られてんぞ」

「は?」

「えっ、虎太郎くん、そうなの?!」

「あーはい。今だから笑い話に出来ますけど、結構凹んだ時期もあったんで」


 豪快に話す虎太くんに、雫さんのご両親が驚愕して苦笑した。


「俺の二の舞を演じるなよ」


 ポンと匠刀の肩を叩いた虎太くんは、すっかりパパらしい顔つきになってる。


「虎太くん、ご出産おめでとうございます」

「ありがと、モモちゃん。もう少ししたら面会できるようになるから、そしたら会ってやって」

「はい」


 虎太くんの登場で、匠刀の奇天烈発言は軽~~く流されたけれど。

 本人は至って真面目に言ったんだと思う。

 ふてくされてる顔がそれを物語ってる。

 だけど、ちょっと表現力が足りなかったかな。


「言い方ってもんがあるでしょ」

「……知らねーよ」


 私との結婚を考えてくれていることも。

 私との間に、子供を望んでくれていることも。


 本当は凄く嬉しいからね。

 今はちょっと、ご家族がいる手前、恥ずかしさが勝ってるけど。


 匠刀の隣りに静かに立つ。

 そして、彼の左手をそっと掴んだ。


 健康な妊婦さんだって、出産は命がけ。

 それが、私の場合、何倍ものリスクがあるのは分かってるから。

 それを承知の上で、言ってくれたことが何よりも嬉しいよ。


「匠刀」

「あ?」


 いつもそう。

 名前を呼ぶと、ちょっと嫌そうな顔で振り返る。

 そんな彼に―――。

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