第114話 変わらぬ想いとオーバーキル③

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「ここは……?」

「勉強に専念するための部屋」


 結局、私は匠刀への想いを封じ込めることができず。

『渡したい物がある』と言われて、彼について来た。


 白星会医科大学のキャンパスから程近い、とあるマンションの一室。


 医学書だけでなく、色んな分野の書籍がびっしりと埋め尽くされた本棚と。

 部屋の隅に置かれた筋トレグッズやバイク用品。

 匠刀らしい部屋に、思わず笑みが零れた。


「兄貴がさ、結婚することになったの知ってる?」

「えっ、虎太くん、まだ結婚してなかったの?」

「おっ、そっちの反応か」

「私はてっきり、もう学生結婚してるかと思ってたよ」

「俺もそうなるかと思ってたけど、まぁ兄貴なりに彼女の気持ちを最優先したんだろうな」


 それもまた、虎太くんらしい。

 匠刀の話題はNGだったけど、虎太くんや商店街のみんなの話は両親から聞いていた。


「とりあえず、実家じゃなくて二人で新婚生活スタートさせるみたいだけど。花嫁修業なのか?よく分かんねーけど、最近毎週末泊りに来てる」

「フフフッ、虎太くんがゴリ押しで誘ってるのが目に浮かぶ」

「だよな。だから、なんとなく居づらいっつーのもあるし、試験勉強に集中したいのもあって、ここ借りたってわけ」

「……そうなんだ」


 今風のデザイナーズマンションの8階にある1DK。

 角部屋だから、少し変わった形のベランダがお洒落で。

 夏だったら夕涼みをしながら、夜景を楽しむのもいいんじゃないかな、だなんて思ってしまった。


桃子とうこ

「ん?」


 窓の外から視線を彼に向けた、その時。


「やる」

「……?」


 何だろう。

 懐かしい記憶が蘇る。

 いつも照れくさそうに差し出して来た右手。

 ぎゅっと握られたその手の中には、私の大好きないちごみるくのキャンディーが握られていた。


 ちょっぴり嬉しくなりながら、彼の手の下に手のひらを差し出す。

 すると、ぽとっと。

 いちごみるくのキャンディーよりも重いものが手の中に落ちた。

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