第110話 恋人の証と一軍男子⑮

 代々木公園内をゆっくりと歩く。


 クリスマスのイルミネーションに彩られた夜景は幻想的だけど。

 青白い電飾の灯りが、再会と別れを示唆しさしてるみたい。


「心理医療学科だったっけ?」

「……うん」

「そこを卒業して、何になるの?」

「……臨床心理士」

「おっ、意外だな。他者と関わるのが苦手だった桃子が、臨床心理士か」


 そうだよね。

 私だって未だにそう思うよ。


 だけど、教授に言われたの。

 他者に言えない気持ちや辛い過去を背負っている分だけ、人の心に寄り添えるスキルになるからと。


「匠刀はお医者さんでしょ?」

「……まぁ、そうだな」

「まだ4年だから決めてないかもだけど、希望の専攻とかあるの?」


 胸部外科を目指してるわけじゃないと言ったから。

 ちょっとだけ気になってしまった。

 彼が目指すものが何なのか。


 元々頭はいいし、手先も器用だし、人を労われる思いやりのある人だから。

『医師』という職業には向いていると思う。


 教え方も上手いから、学校の先生とかにも向いてる気がするけれど。

 匠刀が選んだ道は、医学の世界なんだね。


「大雑把に言えば、外科医」

「外科……手術をするお医者さんだね」

「ん」


 真っすぐと前を向いていた彼が足を止め、くるりと体を私の方へ向けた。


「正確には、小児外科医。桃子が幼い時に苦しんだみたいに、苦しんでる子たちを救う医者になりたいんだ」

「っっ」

「小さな体にたくさんの装置つけて、必死に頑張ってる子のために、少しでも役に立てる、そんな医者になりたい」

「……素敵な夢だね」

「だろ?」


 そっか。

 私が自分の未来を歩み始めてるように。

 匠刀も自分の未来のために頑張ってるんだね。


 昔と変わらぬ優しい笑顔なのに、ズキンと鈍い痛みが襲う。

 もう私が傍にいなくても、匠刀には心から満たされるものがあるんだね。


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