第98話 恋人の証と一軍男子③

(匠刀視点)

 

 白星会医科大学に進学した匠刀、4年生の冬。

 1、2年の基礎医学を終え、3年次から臨床医学の講義と演習を約1年間学んだ。

 そして、4年生の後期から20科目以上の試験地獄に突入している。


 しかも、この試験地獄を乗り切った先に待っているのは、CBT-OSCEと呼ばれる、これまた試験地獄。

 全国の医学生同士で競い合う試験で、CBTは基礎医学と臨床の知識が問われ、OSCEは実技試験が行われる。


 兄の虎太郎の恋人・雫から医塾を紹介して貰い、医学部受験を難なくこなした匠刀だが、全国には優れた学生がたくさんいる。

 その激しい競争を勝ち抜いてこそ、目指す未来がグッと近づく。


「津田、今週末空いてる?」

「空いてるわけねーだろ」


 試験真っただ中で、遊ぶ余裕をぶちかませるほど、楽な医学生生活じゃない。

 

「1時間でいいからさ、合コンに参加して」

「断る」

「そこを何とか!!」

「他当たって」

「頼むよ~~匠刀様~~」


 医学部仲間で同じサークル(フットサル)の男友達・柏木かしわぎ 亮介りょうすけが甘えてくる。

 今日はそのサークルがあって、2時間ほど汗を流したところ。

 帰り支度をしている匠刀の足下にしゃがみ込み、亮介は神頼みをするかのようなポーズをとる。


「何度誘われても、彼女いるから無理っつってんだろ」

「彼女いるって言うけどさ、お前の彼女、一度も見たことねぇけど」

「っ……」

「断る理由にしてんだろ?」

「ちげーよ。……マジで彼女いるって」


 俺は別れたつもりはない。

 今は遠距離なだけで。

 俺と桃子はそんな簡単に切れるような縁じゃねぇ。


「1時間だけ……頼む!!」

「無理なもんは無理」

「聖泉のマドンナが来るんだよ~っ」

「……今、聖泉って言ったか?」

「おっ、聖泉に知り合いでもいんのか?」

「知り合いっつーか……彼女が聖泉に通ってる」

「マジで?!」

「……ん」


 亮介の言葉に、Tシャツを着替える匠刀の手が止まった。

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