第93話 新たな出会いと自分磨き⑧

ゴールデンウィーク最終日(5月7日)の夕方。


「匠刀っ!!」

「……っんだよ」

「どこ行ってたんだよっ」

「あ?……晃司んちだけど」

「モモちゃんから、手紙が来てんぞっ」

「は?……あっ」


 兄貴が差し出して来たのは、クリスマスデートの時に桃子と一緒に書いた『みらい郵便』の手紙だった。

 有名漫画家の絵ハガキにメッセージを書いて、それをオプションで売られていた白い封筒に入れたもの。

 だから、兄貴にしたら、桃子から手紙が来たのだと思ったのだろう。


「サンキュ」

「嬉しくないのか?」

「……嬉しいよ」

「そうは見えないぞ」

「悪い、一人で読みたいから」

「……おぅ」


 兄貴から封筒を受け取り、自室へと。


 久しぶりに見た、桃子の字。

 筆圧が弱く、小さめな字。

 封を開けていないのに、愛らしい控えめな桃子の笑顔が浮かんだ。


 手が震える。

 この手紙を書いた時、既に桃子の中では俺の前から去ることを決意していたわけだから。

 桃子の部屋にあった手紙には『別れよう』だとか、『さようなら』とは書いてなかった。

 けれども、もしかしたら、この手紙にはそれらが書いてあるかもしれない。

 その現実を目の当たりにして、俺は正気でいられるだろうか。


 見なければ、ギリギリのところで、まだ何とかなる気がして。

 見たい気持ちと、見たくない気持ちが複雑に交差する。



 小一時間ほど封筒を握りしめていた俺は深呼吸し、意を決して鋏で封を切った。

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