第73話 クリスマスデートと1カット⑬
美容師さんから改めて説明を受けた匠刀は、物凄く複雑な顔をした。
私の気持ちを汲んでくれてるのは分かる。
けれど、大事に伸ばし続けた髪を、一気に40センチくらい切ると言い出したものだから、匠刀がテンパるのも当然だよね。
「匠刀。今日はお休みのところをわざわざ私のために開けて待ってて貰ったんだから、1カットでいいから……ね?」
「っんなこと言われたって…」
匠刀が躊躇する気持ちは分かるよ。
彼女の髪を切れと言われるだけでも動揺するのに。
いきなり40センチもバッサリとは切れないよね。
「すみません、鋏かして下さい」
「……刃先に気を付けてね」
最初の1カットだから躊躇するんだ。
だったら、もう後戻りできないように、私が切ればいいだけ。
「おいっ、桃子っ!」
私は束ねられているフェイスラインの毛束を掴んで、ジョキッと切り落とした。
「マジかよ……」
「これで切りやすくなったでしょ」
「そういう問題じゃねーっつーのに」
鏡越しの匠刀は、ただただ溜息を零し続ける。
ごめんね。
嫌なことさせて。
だけどね。
これくらいしなきゃ、踏ん切りがつかないんだよ。
気持ちの上で必死に切り替えようと努力しても。
結局、弱い自分が心を占拠して。
どうやったら一歩前に進めるのか。
私なりにいっぱい考えたんだよ。
匠刀の将来。
私の未来。
誰かに指図されるでもなく。
私たちは私たちの進むべき道を進まないと。
***
「何で匠刀が泣きそうになってんのよ」
「そりゃあなるだろ。お前が頑張って伸ばしたの知ってるのに……」
「髪はすぐ伸びるよ。また伸びたら切って貰うからね」
「やっ、マジで勘弁。前髪くらいなら幾らでも切ってやるけど、さすがにアレは勘弁だわ」
ごめんね、匠刀。
最後の最後まで嫌な想いさせて。
だけど、わがまま言うのも、これが最後だから許してね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます