第46話 心無い言葉と抉られる思い④

 週明けの月曜日。

 

「おはよう、モモ」

「もとちゃん、おはよ」


 親友の素子とは路線が違うため、いつも高校の最寄り駅で合流し、学校へと向かう。

 昨日の『学校チャレンジ』(=自宅から徒歩で学校まで行く計画)が無事に成功したことを話すと、薄っすら涙目になりながら、『よく頑張ったね』と褒めてくれた。

正門前で撮った写真を見せると、『リンクコーデじゃん』とすかさずつっこまれてしまった。

 チャレンジが成功したことがあまりに嬉しくて、服装のことなんてすっかり忘れていた桃子は、ちょっぴり恥ずかしくなった。

 

 正門をくぐり、正面玄関へと向かっていると。

 南棟の制服を着た女子生徒が、睨みつけるような険しい表情で仁王立ちしている。

 あぁ、眉間に深いしわが刻まれ、可愛い顔が台無しだ。

 アイドルのような綺麗な顔立ちのその子は、桃子の目の前に立ちはだかった。


「仲村さん、ちょっといい?」

「……何ですか?(え、私?)」

「ついてきて」

「モモ」

「……大丈夫、先行ってて」


 こういうの、本当に面倒くさい。

 どうせ、匠刀のことが好きな子だろう。

 今までもこんな風に呼び出されたことが何度もある。

 桃子は名前も知らない女子生徒の後を追い、校舎の中へと歩いてゆく。


 彼女の足が止まったのは、北棟と連結している長廊下の2階の端。

 この時間はまだ授業がないから、人気ひとけがない。


「あなたが津田くんの彼女だってのは知ってるけど、彼のこと、ちゃんと考えたことある?」

「……え?」


 挨拶を交わすような関係じゃないから、社交辞令を望んでるわけじゃないけれど。


『別れて』

『私の方が先に好きだったのに』

『私も彼のことが好きだから』

 彼女が言いそうな言葉を考えていたら、予想もしない言葉が降って来た。


「津田くんの学力なら、総合特進でもトップ3に入るくらいだって知ってる?」

「へ?」

「知らないの?……幼馴染なのに?」

「っ……」


 名前も知らない子から、遠慮ない言葉が浴びせられる。

 運動も勉強もできることは知ってるけど、中学から一度も同じクラスになったことがなくて、本当のところはよく分からない。

 理系コースで1位なのは知ってても、実際の学力の物差しにはならないよね。


「私、津田くんと中学3年間一緒のクラスだったんだけど」

「……そうなんですね」


 勝ち誇ったような、自信に満ち溢れた目を向けられる。

 クラスが一緒だったからって、匠刀の何が分かるのだろう?

 私なんて10年以上もずっと傍にいたって、つい最近まであいつの考えてることなんてわからなかったのに。

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