第42話 明太子のおにぎりと無地キャップ⑦

 ***


「可愛く撮れてる!」

「キャップ買って正解だったな」

「うんっ」


 プリ機専門店を後にし、駅のコンコースでホットドリンクをテイクアウトし、自宅へと送り届けて貰いながら、さっき撮ったばかりのプリクラをチェックしている。


 テーマパークで売られていた、色違いの無地のキャップ。

 収益の一部がチャリティーになっていて、福祉事業団体に寄付されるという。

 その色違いのキャップ姿でプリクラを撮った。

 それが一番よく撮れている。


「ちゅーしてやったのに」

「おでこにちゅーしたじゃん」

「じゃなくて」

「……えぇ」

「そんなあからさまに嫌がんなよ」

「親に見つかったら何て言われるか」

「はぁ?もうしてるのとっくに知ってんぞ」

「えぇ?!何で、どうして?いつ、どこで?」

「だいぶ前にお前んち送り届けた時に玄関先でしてんの、2階の窓から見られてるから」

「……」

「あ、おばさんじゃなくて、おじさんな」

「マジで?」

「おぅ、マジで」

「その後、お父さん何も言わなかったの?」

「……釘刺された」

「何て?」

「悲しい思いだけはさせないでくれって」

「……お父さんらしい」

「だから、親公認だから」

「お母さんにはバレてないじゃん」

「どうせ、話してんだろ。桃子の両親すっげぇ仲いいし」

「あ」


 そうかも。

 うちの両親は何でも話を共有する。

 私のことに関しては、どんな些細なことでも。


「何か言われたら、ちゃんと挨拶に行くし」

「いや、もう家族みたいなもんだから、今さらでしょ」

「だからだよ」

「え?」

「大事な一人娘のことなんだから、そこはちゃんとしないと」

「匠刀らしい」

「……ばーか」


 匠刀はサラッと口にしたけど、何だかプロポーズみたいでドキッとしちゃった。

 

「あっっっっまっ」

「あー、勝手に飲まないでよっ」

「金出したの、俺じゃん」

「……ケチ」

「ちゅーさせてくれない、桃子の方がケチですけど~」

「あーはいはい、私は超どケチですよ~~」


 買って貰ったキャラメルラテが匠刀には甘すぎたのだろう。

 口直しに自身が手にしているブラック珈琲を一気に飲み干した。


 手にしているプリクラを眺め、ついつい顔が緩む。

 さりげなく匠刀とお揃いのものが買えた。

 初めてのペアグッズ(無地キャップ)。

 今日みたいなことがなかったら、たぶん無理だもん。


「今度、ちゅーのプリクラ撮る?」

「お?」


 私の言葉に即座に反応した匠刀。

 そんな嬉しそうな顔、反則だよ。

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