『オーバーキル』これ以上、甘やかさないで
蓮条
第1章
第1話 恋する乙女はボーダー柄 ①
4月下旬、とある日の放課後。
すっかり葉桜になってしまったソメイヨシノを教室の窓から眺めていると、親友・
「モモ、帰るね?」
「うん。もとちゃん、また明日」
「仲村さん、そろそろ行く?」
「……ん」
親友のもとちゃんを見送る私、
周りの女の子たちからは、『とうこ』ではなく、『モモ(ちゃん)』と呼ばれている。
入学式の翌日に、くじ引きで見事にクラス委員を引き当てた桃子。
もう一人のクラス委員の
桃子が通う高校(白修館高校)は文武両道の有名私立高校で、北棟はスポーツ特進科、南棟には偏差値73と言われる普通科がある。
校舎はアルファベットの『H』のような形をしていて、それぞれの塔に学食や特別教室などが完備されている、俗にいう超セレブ校だ。
桃子が在籍しているのは南棟の普通科。
その普通科は、文系、理系、総合特進の3つのコースに分かれていて、入学と同時に大学受験対策がスタートするほど、都内でもトップクラスの進学校だ。
「仲村さんって、身長どれくらい?」
「……」
「あ、ごめん」
「……150㎝(本当は148㎝だけど)」
「ちっちゃ」
「……」
「あ、マジでごめんっ」
デリカシーのない質問にムッとする桃子。
こういう質問をされるのには慣れているが、やはり何度聞いても気分のいいものじゃない。
分かってる。
見た目も性格も小学生並みだということくらい。
でも、仕方ないじゃない。
人間、そんなに簡単には変われないんだから。
幼い頃から風邪を引くと半月ほど寝込んだりしていた桃子は、5歳の時に心筋炎にかかり、死のふちを何度も彷徨った。
幸いにも命は取り留めたが、心臓の一部が損傷したことにより、定期的な検査と薬物療法による治療が今も行われている。
親友の素子には『可憐なモモが羨ましい』だなんて言われるけど、桃子にしてみれば元気に外を駆け回れる方が羨ましい。
病気で休みがちな桃子にとって、他者との会話はとてつもなくハードルが高い。
ここ2~3年は心臓の具合も落ち着いていて、女友達ができるほど学校にも通えるようになったが……。
クラス委員の役割だと分かっていても、こんな風に至近距離で会話するのは怖い。
素子には5歳離れた兄がいて、その兄には軽度の知的障害がある。
いつも体育を見学している桃子が気になっていたようで、素子から声をかけられたのがきっかけで仲良くなった。
ハンディキャップを負っていると心が塞ぎがちになるが、素子の明るさに桃子は何度も救われて来た。
**
委員会の話し合いが終わり、雑談している宮崎に声をかける。
「宮崎くん、もう帰っても大丈夫かな……?」
「うん、大丈夫だと思うよ」
「じゃあ、ごめん。私、先帰るね」
「ん、お疲れ」
隣りのクラスの子と会話している宮崎に軽く会釈し、桃子は3年A組を後にした。
「急がないとっ」
気持ちは焦るけれど、廊下を走ったりできない桃子。
校則で走ってはダメという理由からではない。
心拍数が上がると、心臓に負担がかかるから走れないのだ。
早歩きのような競歩のような足取りで、桃子は先を急いだ。
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