ラプラスの運命

元目嘉月

序文

遥か昔のことである。世界は混沌としていた。そこに三人の女神が現れた。名をクロートー、ラケシス、アトロポスという。三人の女神は世界を創造した。女神は混沌から「大地」を作り出した。続いて混沌から「海洋」を作り出した。最後に余った混沌を固め「天空」を作り出した。


 世界の基盤を創造した女神は次に生命を作り出した。初めに作ったものは植物である。大地は緑に覆われ、海中には色鮮やかな藻が生えた。次に作ったものは魚である。大海を自由気ままに泳ぐ大小さまざまな魚。やがて女神は魚に力を与えた。陸へ上がるための力である。魚は足を得て大地へ進出した。大地へ進出した生物はそれ以降も女神から力を与えられ続けた。そして女神は遂に知能を与えた。単なる猿であった存在に思考を与えた。それが「人間」である。人間は自らを創造した女神を崇めた。


 女神は人間に力を与えた。その力は道具を扱う力と魔法を扱う力に大別される。それは人間の暮らしを豊かにし、人間を世界最強の生物たらしめた。一部の人間は愚かにも神に挑もうとした。無論、一介の生物が神に勝てる筈がない。だが、人間とは欲深いものである。神を超えるという幻想はやがて多くの人間に共有され、幻想は目標となった。三人寄れば神の知恵とはよく言ったものだ。人間は協力を覚えてしまった。


 神を超えんとする者たちの首魁しゅかいであったのが「ラプラス」と名乗る者であった。ラプラスは与えられた魔法を悪用し、神を封印する魔法を作り出した。それを得てしまえばどうなるかは容易に予想がつくであろう。同胞を犠牲に、ラプラスは三女神を封印した。

 そしてラプラスは女神の力を奪い、世界を支配する存在となった。手始めにラプラスは世界に生きる生物に「死」を与えた。非常に残酷なものである。死を与えられた生物は己が長く生き残るために争うようになった。女神の力がなくとも自ら体を変質させるようになった。


 ラプラスはえつに入っていた。享楽にふけっていた。暫くラプラスは世界の惨状を眺めていたが、よりむごたらしい発想を得てしまった。それは己の寿命を理解させるというものである。だが、高度な知能を持たぬ生物に寿命の理解などは出来ない。それらは生存本能に従って動いているに過ぎない。では人間はどうか。死を恐れる本能は成長の途上で思考に干渉する。ならば思考が本能に追いついた時に己の寿命を知らしめてやろう。ラプラスは人間に対する「寿命宣告」を始めたのだ。

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