ラットライシクル

小望月きいろ

プロローグ

 ゴミだらけのやせ細った灰色の星──これが、今の地球。

 緑と青に輝く美しかった星は、たった一種類の生き物によって奪われた。


 強欲な生き物──「ニンゲン」。


 ニンゲンは、豊かで楽な生活を求めて、たくさん『物』を作った。

 そのために、我が物顔で木々を切り倒し、海を埋め立て、空気を汚し、他の生き物の居場所さえ奪った。

 ニンゲンは、飽きたらすぐに物を捨てた。

 ニンゲンは、豊かになればなるほど、新しい物を求めた。

 プラスチックでできた物は、土へ還らずにゴミとして残った。

 作って、捨てて、また作って、また捨てて。

 もっと新しい物を。もっと刺激のある物を。

 気がつけば、地球はニンゲンにとっても生活するのが苦しいほど、荒れ果てた星となっていた。


 次にニンゲンが始めたこと、それは『星の恵みとなる生き物を作ること』だった。

 プラスチックを食べ、やがて土へ還る微生物を作るために、ニンゲンの研究者たちは実験を重ねた。

 小さな生き物が、かつての美しい星を取り戻す大きな希望となるはずだった。

 しかし、実験は失敗だった。

 微生物は土へ還ることを拒み、ゴミと合体してモンスターと化し、ニンゲンを襲い始める。

 さらに、モンスターは有害なガスを発生させ、多くのニンゲンを死に追いやった。

 生き残ったニンゲンたちは、モンスターとガスから逃れるために、地下街へ避難する。

 しかし、有害なガスは、わずかながらも地下へ流れ込んでいた。

 元々地下街に住み着いていたネズミたちは、何も知らずにガスを吸い込んだ。当然、多くのネズミが死んだ。

ただ、ガスを吸っても生き残ったネズミもいた。それでも、まったく影響がなかったわけではない。

 ネズミたちの身体は、何倍もの大きさとなり、二本の脚で立ち始めた──そう、まるでニンゲンのように。

 ネズミとニンゲンは、地下に残された食べ物や住む場所をめぐって争った。

 ネズミの圧倒的な数を前に、ニンゲンたちは為す術がなかった。

 ネズミたちはニンゲンを地下街から追放し、地上へつながる扉をすべて閉じた。

 その後のニンゲンの行方を知る者は、誰もいない。

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