内面の美しさが外面にモロに出てくる世界

ちびまるフォイ

人間の美しさは内面から

『犯人は逮捕され、身柄を警察に預けられています』


テレビでは犯人の顔が映し出される。


「うわ、悪い顔してる。これは絶対犯罪者ね」


「あんたそんなゆっくりで大丈夫なの? 学校は?」


「ママ、私は美人なの。ちょっとくらいの遅刻はチャームポイントよ」


「ちょっとじゃないけどね」


学校にいくと担任の男の教師はしょうがないなと許してくれた。

私から嫌われたくないのだろう。


私は生まれたときから美人だという自負がある。

街に出れば当たり前に声をかけられるし、断った告白は数え切れない。


でも私はけして浮世離れしていない。


あえてブスな友達を横に置くことで、

美人というハイスペックでとっつきにくい雰囲気を中和してくれる。


「ねえ、次の授業なに?」


「え、えと……なんだったかな……」


「ああもうしっかりしてよブス

 私の近くにいるだけで男が寄ってくるおこぼれがあるんだから」


「ご、ごめん……」


友達もといアクセサリーである彼女は生まれてからまごうことなきブスだった。

小学生の頃からいじめられてたのも納得。

だって、人間は自分より劣るものを攻撃したいんだもの。


こんなにブスなら当然じゃない?



数日が過ぎた頃だった。



「あんた、なんか顔変わってきてない?」


「なによママ。たしかに朝はむくんでるかもしれないけど」


「そうじゃないのよ。なんか……ブスになってる?」


「はあ!?」


鏡を確認するが、自分では変化がゆるやかすぎてわからない。


「変わってないわよ。テキトーなこと言わないで!

 私は、この顔で女優になって、アイドルの"タクヤ"と結婚して

 玉の輿になって、毎日自由に暮らすんだから!!」


「わかってるわよ。あんたの部屋見りゃ誰でもわかるわ」


「それなら私の夢を邪魔するようなこと言わないで! ああもう不愉快!」


苛立ちながら学校へ向かう。

こういうときはブス美をいじってストレス発散に限る。


しかしーー。


学校で待っていたのはブス美が告白されている現場だった。


「オレと、付き合ってほしい!!」


「え、え……その……わ、私なんかでいいの……!?」


「君じゃなきゃダメなんだ!!」



ーーなんで私がいながらブス美なんかに恋してるのよ



たまらず告白現場に割り込んでしまう。


「へえ、〇〇君ってブス専だったのね。知らなかったわ」


「はあ? 何言ってるんだ? お前なんか好きじゃない」


「ん?」


「オレは美人が好きなんだ。ブスは黙っててくれ」


「え……わた、私のことを言ってる?」


「彼女と二人で並んで歩いてみろよ。自分がどれだけ劣っているかわかるぞ」


「ふ、ふざけないで!! なんで私がブス美なんかに……!」


脊髄反射で反論しながらも、ブス美の顔を見て言葉を失った。

まるで女優のような顔立ちの美人が立っていた。


「なんで……なんでそんなキレイなのよ!? 整形したの!?」


「せ、整形なんてしてないよ……。でも朝起きたらこの顔に……」


「嘘よ! なんでそれじゃ私はこんな顔なのよ!!」


ブス美が清純派アイドルのような透明感に対し、

私なんかは犯罪者集団のような顔になっていた。


それからはもうお互いの扱いは一転し、

ブス美には告白する男子が列をなしていた。

私は捨てられた雑巾のような扱い。


それでもブス美は変わらず接しようとするのがさらにうっとおしかった。


「こんなはずじゃない……。わ、私は芸能人になるのよ……。

 タクヤと結婚して……それで、それで……」


前に小さいからと断った芸能事務所へ片っ端から電話した。

私をデビューさせてください、と。


わらにもすがる思いで面接に行ったのに、

もはや会場につくなり追い返された。


「なによ! 私は美人なのよ!! 美人だったのよ!?」


「おい警備員! 勘違いブスをつまみ出せ!」


つまみ出されてゴミステーションに放り投げられた。

もはや私が美人になるにはひとつしかなかった。


整形外科の医者は私の顔を見るなり察したような顔をした。


「なるほど。顔を美人に作り変えたいと」


「ええそうよ。私は美人だったの。

 パーツは悪くないはず。美人に戻してちょうだい」


「いいですか、先に話しておくと

 ここで整形してもまたその顔に戻りますよ」


「はぁ!? なんで!?」


「人間の顔は内面の影響が非常に強く出ます。

 あなたがブスになったのも、心がブスだったからでしょう」


「そんなことっ……なくは、ないかもだけど……」


「仮に顔を作り変えたとしても、

 心のブスさでまた戻るというわけです」


「じゃあなによ! 私はこのまま一生ブスとして

 しいたげられながら生きていけと?

 冗談じゃない! 私にはタクヤとの結婚が控えてるの!」


「ですから、むしろこちらを紹介したいと思います」


「心の……整形外科?」


「その名刺の場所を訪ねてください。

 あなたの心もきっとキレイにしてくれますよ」


「顔は……心の美しさが出る鏡、なのよね?」


「ええそうです。だから、心をキレイにすれば

 こんなところで顔をいじくらなくても

 自然な形でまた美人の顔に戻れるはずです」


「もっと早く紹介しなさいよ!!」


もらった名刺のもとを訪ねると

たしかに心の整形外科という病院が立っていた。


すぐに手術の日取りを決めて、さっさと心の整形を始める。


「その手術前に聞くのもおかしいけど、

 心を整形するのって痛く……ないのよね?」


「ええ、痛くもかゆくもないですよ。

 それにすぐ終わりますから」


手術は執刀医の言葉どおりものの数分で終わってしまった。

終わってからも特に変わりはない気がした。


「いかがですか? 心がキレイになった感想は?」


「いえ、あまり実感ないですね」


「そんなものです。でもほら鏡を見てください。

 まだちょっぴりではありますが、顔立ちがキレイになってるでしょう?」


「たしかに」


変化を見比べるために手術前の自分の写真を撮っておいた。

鏡の自分と写真の自分。

見比べてみると、今のほうがキレイになっている。


ただその事実があるだけだった。

なんで私はそもそも心の整形に踏み切ったのだろう。


「ただいま」


「あら、おかえり。すごい。ずっとキレイになったわね」


「そうなんだ」


そのまま自分の部屋に上がる。

部屋を見て掃除しようとふと思った。


お母さんが部屋にやってくると持ってきた麦茶を落とした。


「あ、あんたなにやってるの!?」


「掃除だけど」


「そうじゃなくて! あんた、タクヤ好きだったんじゃないの!?

 一生懸命グッズやポスター集めてたじゃない!

 なんでそれ全部捨てちゃってるのよ!?」


「いやだって邪魔だし」


部屋はベッドと机だけのシンプルなつくりになった。

私は心を入れ替えてから、モノに執着する汚さを捨てた。

誰かと付き合いたいとかいう下心もなくなった。


翌日、学校にも行った。


私の美人ぐあいにクラスメートは驚き、まもなく告白ラッシュが行われた。


「お願いです、付き合ってください!」


「うんいいよ」


「え」


「どうしたの? 付き合うんでしょう?」


「や、やったーー!」


そのうち、一番最初に告白した男子と付き合うことにした。

私の心は清らかになったので、イケメンと付き合いたいとかいう

自己顕示欲や自己承認欲求などもなくなっていた。


心がキレイになったから。


「ね、ねえ……」


真須美ますみちゃん。どうしたの?」


「ブス美でいいよ。そっちのほうが慣れてるし」


「ううん。そんなこと言えないよ。心が汚くなっちゃう」


「その……だいぶ印象変わったけど、なにかあったの?」


「実は心をキレイに整形したの。いままでひどいこといってごめんね」


「で、でも……私は前のほうが好きだった」


「どうして? 前の私は心が汚かったでしょう。

 でも今は人にも優しくできるし、汚い感情は何一つないわ」


「うん、そうなんだけど……」


彼女はそれでも言葉を続けた。


「今は……まるで人形みたいなんだもん……」


そう言われたが、私は何も感情が動かなかった。

もちろん淀みなくきれいな返答をした。



「そうなんだ。ありがとう。考え方はひとそれぞれ。

 今の私も気に入ってもらえるようにがんばるね」



きれいな心はどんなときもキレイな答えが返せる。


たとえそれが人間らしさを失ったものであったとしても。

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