いじめっ子と浮気した婚約者の不幸を神社でお祈りしたら妖狐様が嫁になりました。~異界レベルアップでざまあします!~
ナガワ ヒイロ
第1話 婚約者がいじめっ子と浮気してた
ある日、俺の日常は変わってしまった。
たった一つの出会いで、狂った歯車が再び噛み合ったのだ。
「くふふ、今日はレベルが3も上がったようじゃな。頑張ったのう、いい子いい子してやるのじゃ」
「あ、ああ、だから、その」
「皆まで言わずともよいのじゃ。頑張った者には褒美を与えるもの。今宵も妾の身体を好きにしてよいぞ♡」
俺は目の前で妖しく微笑む美しい少女をベッドに押し倒した。
この少女は人間ではない。
神々しさを感じさせる真っ白な長い髪と太陽のように光り輝く黄金の瞳。
そして、ピンと伸びたもふもふな狐の耳と九つの尻尾。
その顔立ちは思わずゾッとするほど整っており、スタイルに至っては美しすぎる完璧なプロポーションだった。
まさしく絶世の美少女である。
「まーた自分本意な腰使いをしおって♡ ますます妾好みの童になったのぅ♡」
「はあ、はあ、
「くふふ♡ 安心するのじゃ♡ 妾はお主の心を弄んだ醜女とは違う♡ お主だけを愛し、お主だけに愛される♡ お主だけの女♡」
「うぐっ」
頂きへと到る寸前。
「好きなだけ妾をめちゃくちゃにするのじゃ♡ 妾の愛しき旦那様♡」
「うぅ、真白、可愛い……」
精根尽き果てるまで愛し合う。
力尽きた後は優しく頭を撫でられながら、俺は深い眠りに就く。
どうしてこうなったのか。
俺は婚約者として互いに愛し合っていた恋人がクラスのいじめっ子と浮気を目撃した日の出来事を思い出すのであった。
◆
僕の名前は
家はそこそこお金持ちで、都内の有名な学校に通っている高校生だ。
突然だけど、僕には婚約者がいる。
その婚約者の名前は
僕がまだ幼い頃に婚約した父が勤める会社の社長令嬢である。
一つ年上の黒髪ロングでスタイル抜群な上、正義感も強くて僕が通っている高校の生徒会長も務めている。
気弱で自己主張もできない僕にはもったいない、素敵な婚約者だ。
そう、思っていた。
「おいおい、憧れの生徒会長様が婚約者も放って浮気とかしちゃっていいんスかぁ?」
「か、彼の話はいいだろう? 早くいつもみたいにシてくれ」
「へいへい。ったく、淫乱な生徒会長だぜ」
神成さんがクラスのいじめっ子と空き教室で肌を重ねている。
それを僕は廊下で扉越しに聞いている。
「はあ、はあ、んっ♡ 私はもう、君なしでは生きられなくなってしまった♡」
「ククク、嬉しいこと言うじゃなーか。最初に腑抜けてる彼氏を守ろうとオレに直談判してきたカッコイイ女とは思えねーぜ」
「あ、あれは君が薬で無理やり……」
僕は以前、いじめに遭っていた。
親がお金持ちで神成さんみたいな誰もが憧れる婚約者がいて気に入らなかったのだろう。
直接的な暴力を振るわれることこそ無かったが、お金を取られたり、私物をゴミ箱に捨てられたりしていた。
父に迷惑をかけるわけにも行かず、僕はずっと一人で耐えていたが……。
ある時、僕がいじめられていることに気付いた神成さんがいじめっ子に直談判し、いじめを止めてくれたのだ。
でも、ああ、どうしてその神成さんが僕をいじめていた奴と肌を重ねているのだろうか。
「ここ最近はお前の方から誘ってくるくせによく言うぜ!!」
「ひゃんっ♡」
僕は耳を塞ぐ。
二人の逢瀬の場となっている空き教室に僕が来てしまったのは殆ど偶然だった。
神成さんと一緒に帰るために彼女を待っていたら、先生に資料の片付けを頼まれて、物置きになっている空き教室までやってきた。
そこで目撃してしまった最愛の婚約者と大嫌いないじめっ子の逢瀬。
心臓が軋む。
「ところでさあ、天音。また万堂のこといじめていい? 明日から夏休みじゃん? 金ねーからアイツから巻き上げたいんだけど、明日適当に呼び出して校舎裏に連れて来いよ」
「っ、そ、それはっ」
「あ? コレやめてもいいんだぞ?」
「あぅ、や、やめないでぇ♡」
「じゃあ万堂から金巻き上げるの手伝えよ」
「は、はひっ、わ、分かっ――」
だから僕は逃げ出した。
いつも僕のことを守ってくれていた彼女から、僕へのいじめを容認するような言葉だけは聞きたくなくて。
先生に頼まれていた資料の片付けも放り出し、学校を飛び出した。
「うっ、うぅ、うあ……」
外は雨が降っていた。
でもよかった。晴れだったら、多分大粒の涙を流して泣いている変な人になるところだった。
「……ぐすっ、うぅ、ひっぐ……」
悔しさとか悲しさとか、色々な感情が混ざり合ってぐちゃぐちゃになる。
僕は何が悪かったのだろうか。
神成さんがいじめっ子に変えられてしまう前に気付いたなら、いじめをものともしない性格だったなら。
結果は違っていたのかもしれない。
「……父さんに婚約破棄したいって言ったら、怒るかな……」
父は仕事一筋だ。
母は僕を出産してすぐに事故で亡くなり、家にはいつも一人。
だから神成さんが家事をしてくれて、毎日が幸せだった。
父も神成さんを本当の娘のように可愛がっていたし、何もかもが順調だったはずなのだ。
「……死にたい……」
もう考えることすら嫌になって、僕は俯きながらそう呟いた。
その時だった。
「なーにが死にたい、じゃ。何があったかは知らんがな、そういうことは口にするものではないぞ。よくないものに取り憑かれるからのぅ」
「……え?」
「くふふ、どうしたのじゃ? 狐につままれたような顔をしおって」
何が起こったのか分からない。
僕は昨日と同じように自宅まで続く道を歩いていたはずだった。
しかし、いつの間にか知らない神社にいた。
やたらとボロボロで、社が朽ち果てかけている神社だ。
その神社の境内に僕は立っていて、雨もいつの間にか止んでいる。
ただでさえ困惑しているところに知らない少女の声が聞こえてきたのだ。
もう本当に意味が分からない。
「え、ここどこ……? だ、誰かいるの!?」
「ここじゃよ、ここ」
声の主を探して辺りを見回すと、鳥居の上に少女が座っていた。
美しい少女だった。
胸元が大きく開いた結構露出度の高い純白の衣を身にまとっており、言葉では言い表せない妖しい雰囲気をまとっている。
その少女が人間ではないことは一目で分かった。
雪のように真っ白な髪と黄金の瞳もそうだが、何よりピンと伸びたもふもふの耳と九つの尻尾が生えていたのだ。
少女は鳥居の上から飛び降り、音もなく着地して悠々と僕の方に向かって歩いてきた。
近くで見ると更に美しい。
年齢は十五、六歳くらいだろうか。僕よりも一つか二つ年下と思われる。
「き、君は……」
「名前なぞ多すぎて忘れてしもうたのじゃ。それよりも童、赤子のように泣きじゃくって何があったのじゃ? 妾でよければ聞いてやるぞ?」
そう言って優しく微笑む少女。
きっと僕は愚痴を誰かに聞いてもらいたかったのだろう。
僕は今にも朽ち果ててしまいそうな社の中へ案内され、腰を下ろして少女に学校で起こった出来事の全てを語る。
少女は俺の話に適度な相槌を打ちながら最後まで静かに聞いていた。
僕は話しているうちに泣いてしまった。
「す、すみません、泣きながら話しちゃって。こんな泣き虫だから婚約者を取られちゃうんでしょうね、あはは」
「なるほどのう。お主の許嫁がいじめっ子に奪われた、と」
「まあ、はい、そんな感じです」
簡単にまとめられてしまった……。
「ま、操も立てられんような股の緩い女など捨ててしまうべきじゃな」
「そう、ですね」
「……ふぅむ。童、お主その許嫁の小娘に未練があるのじゃな?」
「……未練というか、ただ嫌なことから逃げるみたいで嫌なだけだと思います」
今でも神成さんのことを好きかと訊かれたら、もう頷けない。
むしろ嫌いだ。
「子供みたいですけど、僕をいじめてた奴に身体を許している神成さんが、今は気持ち悪くて仕方ない」
「お、おお、落ち着いたらハッキリ物を言うようになるのぅ」
「……学校でも同じように言えたら、少しは何か変わったんですかね……」
まあ、今更考えても仕方ないことだ。
「ありがとうございました、えーと、巫女さん? お狐様? 分かんないですけど、お陰で落ち着きました」
「くふふ、気にしなくてもよいぞ。せっかくじゃ、妾の社に賽銭でも落としていくのじゃ」
狐の耳や尻尾から薄々そう思っていたが、やはりこの少女は神社に祀られている神様か何かだったのだろう。
妾の社、って言ってるし。
僕は立ち上がってボロボロの社を出たが、少女は追ってこない。
振り向いたら社の戸は閉じており、もう少女の姿は見えなくて、何となく鳥居を出たら元の場所に戻れるような気がしてきた。
「……一応、お参りしとこ」
僕は財布から五円玉を取り出し、賽銭箱に投げ入れる。
そして、祈った。祈ってしまった。
(神成さんといじめっ子が不幸のどん底に落ちますように!!)
我ながら陰湿だ。
自分の力で嫌いな相手を不幸にすることはできないから、相談に乗ってもらった神様にお願いするとか。
こういう人間だから僕はいじめられるし、裏切られてしまったのだと思う。
『くふふ。くふふふふ、祈ったのう、童。妾に祈ったのう!!』
「え?」
急に視界が歪む。
吐き気がして、気持ち悪くて、頭の中がぐわんぐわんする。
社と鳥居が崩れ落ち、世界が壊れて行く。
気を失ってしまう寸前、僕は神社にまつわる有名な話を思い出した。
神社に祀られている『何か』は、必ずしもいい存在ではない。
むしろ悪しきモノを鎮めるために祀ることもあるのだと。
そして、お参りしてはならない神社もあるということも。
……もしかして……。
『ああ、案ずるな♡ 妾はお主を裏切らぬ♡ お主の願いを叶え、心も身体も妾好みの男にしてやるのじゃ♡ くふふふ、くふふふふふふっ♡』
弾むような無邪気な声だ。
僕はその妖しい笑い声を最後に、意識を失ってしまうのであった。
―――――――――――――――――――――
あとがき
どうでもいい小話
作者「急にエッチな狐っ娘がメインヒロインの作品を書きたくなった。ついでに寝取られざまあ系も書きたくなったから混ぜる危険」
正宗「混ぜちゃったのか……」
「間男には死を!!」「浮気女にも死を!!」「寝取られざまあ系かあ」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。
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