第16話
草籠の中に小蟹を入れ、木桶に水と小魚や小海老を入れているとガサガサと離れた茂みが揺れ動くのが視界に入る。
何か来た。
俺はすぐにその場に草籠や木桶を置いてから、木の陰に隠れて茂みに潜む何かが出て来るのを待つ。
何が来るのか。何が現れるのか。それを待ちながらジッと息を潜めて待っていると、茂みから茶色の毛皮をした兎が姿を現した。
兎だ!内心で普通の動物である兎が現れたことを喜ぶ。これで夕食のおかずが増える!と。
小川に水を飲みに来ているのか。辺りを警戒しながら野兎は小川に向かってピョンピョンと跳ねる。
俺は木の陰から投擲に使える小さなナイフを取り出して、いつでもナイフを投擲できる様にしながらタイミングを待っていく。
いま!!木の陰から半身だけを出して小川に頭を向けて水を飲んでいる野兎目掛けて投擲した。
投擲したナイフは俺が狙った通りに野兎に突き刺さり、野兎は悲鳴を上げながらボチャンと小川に落下する。
小川から出ようと暴れる野兎は徐々に弱っているのか、小川から聞こえるビチャビチャ音が小さくなっていく。
俺は小川に向かい小川を覗く。そこには弱々しく暴れている野兎の姿があった。
俺は小川に手を突っ込んで、そのまま野兎に刺さったナイフを引き抜くと、野兎の首筋を狙ってナイフを振るう。
既に弱って抵抗もしない野兎にトドメを刺した俺は、まだ野兎の心臓が動いている内に頸動脈を切り裂いて野兎の体内から血液を排出させていく。
それが終われば解体だ。俺はその場で野兎の解体を行ない、野兎を毛皮と骨付きの肉へも変えた。
「帰るか。」
本来ならもっと小川から取れる小魚や小海老に小蟹を獲りたかったところだが、それよりも大物の野兎を獲れたのだから帰るのだ。
草籠を木桶の中に入れて、そこら辺に生えている蔓を使って縛った野兎の毛皮と骨付き肉を背負って俺は家に帰宅する。
小走りで移動して30分。それくらいの時間で森の中から家にたどり着いた。
「ただいま!今日は野兎が獲れたよ!!」
「凄いな、ショウ見せてくれ。」
「うん!!」
家の玄関前にたまたま居た父さんに縛った野兎の毛皮や骨付き肉を見せる。
「なかなか良い大きさだな。母さんにはショウに大きな部分を渡すように言っておこう。」
「やった!!じゃあ、これ置いて来るね。」
改めて背負い直した解体野兎を持って俺は台所へと向かった。
台所の一角に草籠が入った木桶を置いてから、棚から大小1つずつの木桶を取って来ると、その内の小さな木桶に野兎の骨付き肉を入れて蓋をする。
もう1つの大きな木桶の中にさっきの蓋をした小さな木桶を入れると、大きな木桶の方に【プチウォーター】の魔法を使って水を注いでいく。
「よし、これで良いかな。」
木桶に水が入り、これで野兎の骨付き肉が木桶が水で冷えることで腐りにくくなったはずだ。
「あとはこれだな。」
残った野兎の毛皮には手早く解体したせいでまだ皮には肉片や脂なんかも付着している。
これからこれを取って毛皮として使える様に加工していく。見習い革細工士のジョブがこれで鍛えられるだろう。
野兎の毛皮を加工して使える様にしていく。今日の作業はこれで天日干しして乾かすだけだ。
「ふぅ、終わった。」
昼食の時間まで暇だから草原にでも向かうかと起き上がると、家の畑を経由して草原に向かうのだった。
そんな生活を続けながらジョブを極める為に過ごしていれば、俺の身体能力は普通の子供を超えるほどに上がっており、ジョブをそこまで極めていない大人と比べても変わらないほどである。
そんな風にジョブを極めた結果、俺は高い身体能力を持って森の中に入って行く。
小川沿いに移動せずに森の中を移動すれば、森の中にはそこそこの量の果物を発見したり、食用の野草や山菜なんかも見つけられる。
草籠の中に発見次第に入れて行けば、大きな背負う草籠の中にはたくさんの採取物がいっぱいになっていく。
「っ?何かいるな。」
俺は草籠を木の陰に隠すと、俺も近くの木の陰に隠れて何かの気配のした方向を警戒しながら確認する。
そこには1.5メートルサイズの熊が居た。本来ならもっと森の奥の方に現れる熊がなんで居るのか疑問だが、熊の大きさ的には子供から大人になり掛けくらいなのだと思う。
まだ熊は俺に気が付いていない。それにあの熊はモンスターではなくて動物の熊だ。
今の俺の装備は投擲用の石ころ、採取・解体用のナイフ、布の服、皮のサンダル、背負い草籠だけである。
こんな装備ではいくら動物の熊だとしても確実に勝てるとは言い難い。このまま気が付かれずに熊が立ち去るのを待つのが良いだろう。
隠れながらそう思っていると、熊は鼻を地面に向けて何かを探し始める。その姿はトリュフを探している豚のようだ。
そして熊は鼻をヒクヒクと動かしながらこちらにのそのそとやって来ている。
俺に気が付いた様子もない。そこで俺は草籠の中に入れた果物に付いて思い出した。
あの草籠の中に入っていた果物は匂いを発している果物でもある。その果物の匂いをあの熊は探し当てたに違いない。
せっかく集めたのにあの熊にすべてを奪い取られるのは癪だ。まだ身体の大きさは1.5メートルくらいの大きさだ。あのサイズの熊なら無茶をすれば勝てるはずだ。
心の中で気合を入れて解体用のナイフを取り出すと、熊の目を狙って投げる準備を行なっていく。
ここだ!!そう思ったタイミングで解体用のナイフを熊の目に向けて投擲した。
「グギャアア!!!??」
熊の目に投擲した解体用のナイフが突き刺さり、熊は痛みで絶叫を上げて目に刺さったナイフを手で取り除いた。
片目から血液を垂れ流しながら熊は自身を攻撃した俺に向けて殺意がこもった目を向けて来る。
ビクッと身体が震えてしまうが、それもすぐに元に戻って身体をいつでも動かせるように準備を行なう。
「グルァァアアア!!!!!!」
殺意を向けながら俺に向かって熊は駆け出して来る。そのスピードは俺に取っては早くは感じるが、それでも対応することが難しいほどの速さではない。
腰に着けている草で編まれた籠に入っている石ころを熊に向けて俺は投擲していく。
狙うのは熊の残っている目を狙って投擲していくが、熊は自分の目を守りながらこちらに向かって駆け寄って来る。
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