第11話
あれから数日経ってプラン村にインザ町から冒険者がやって来た。その人数は20人。どうやら森中を探索する為にこの人数らしい。
ならず者の様な見た目をしている人は冒険者たちの中には居ない。それどころか女性の冒険者が9人も居るのは多過ぎないだろうか?
それともこの世界はジョブがあるからこそ男女の戦闘能力がそれほど変わらないのかも知れない。
俺には相手の強さは分からないがそれでもこの人たちは強いんだなとは感じ取れるのだから強いのだろう。
冒険者たちが泊まるのは空き家になっている家や村長宅に教会だ。これ以上の人数だった場合には村民の家に泊まって貰うことになる。
そうして村にやって来た冒険者たちを見に村の子どもたちが集まっていた。俺もその内の1人として冒険者たちを見ている。
それぞれの冒険者パーティーのリーダーたちは村長と一緒に教会に向かった。どうやら教会でゴブリンが現れた森に付いての会議を行なうのだろう。
今日は教会での授業もない為、暇をしている子供たちは多く、早速子供の1人が冒険者たちの元に突撃していた。
どうやら冒険者たちにどうすれば冒険者として活動できるのかを聞いているみたいだ。確か突撃した子供は来年で12歳になる子供だったはずだ。
メドーレ王国に幾つかある迷宮都市パラザンの職業育成校に通うはず、そうなるとあの子供は冒険者を目指すのかも知れない。
今も冒険者たちの中から答えてくれている冒険者から懸命に話を聞いている。
「それじゃあ俺が戦い方を教えてやろうか?他のガキ共も構わねぇぞ?」
それを周りの子供たちに混ざって聞いていると、1人の冒険者が戦い方を教えてくれると言った。
子供たちはザワザワしている。何故なら戦い方を教えると言った冒険者の顔がかなり厳つい顔をしているからだ。
あれだと本心から子供に教えようとしているのか、それとも嫌がらせや揶揄う為に言っているのか分からない。
それでもこれはチャンスだ。周りの色々と親切に子供の質問に答えてくれた女性の冒険者が何も言わない。周りの冒険者たちも「手加減しろよ」などと言うだけで止めようとしないし、それに教えようとしている冒険者に嫌悪を向ける冒険者が誰1人居ないから多分だが大丈夫だろう。
それに教えてくれる男の冒険者はチラチラと女性の冒険者を見ている。その事から子供に戦い方を教えて良いところを見せようとしているのだと思う。それなら大きな怪我を負うような事はしないはずだ。
「お願いします!」
「おう、元気が良いな。ちっこいが歳は幾つだ?」
「5歳です!」
5歳の子供が戦い方を教わる。これには周りの見守っていた冒険者たちも騒ついた。流石に5歳児が戦い方を教わろうとするのは普通じゃなかったのだろう。
「他にも居るか?……そ、うか。居ないのか。それじゃあ、ガキ。お前、名前は?」
誰もこの厳つく強面の男の冒険者に教えを乞おうとはしなくて、男の冒険者は少しだけ悲しそうな顔をしてから俺に名前を聞いてきた。
「ショウです!」
「俺はダンデだ。お前に教えるのは格闘術の一つ破断流だ。」
「破断流?」
ダンデが言う破断流は無手の剛拳の流派の一つなのだそうだ。いかなる相手でも破壊し断ち切るのだそうだ。
「実際に見せた方が早いか。ムーラ、石壁を作ってくれ。」
「はぁ、分かった分かった。これでいいかよな?」
ムーラと呼ばれた女の冒険者は石作りの壁を作り出す。それもかなり分厚い一枚岩の壁をだ。
「それじゃあ見ておけよ……はっ!!!」
ダンデが拳を石壁に向けて放つ。拳が石壁に当たった瞬間に、拳が当たった場所を起点に石壁は2つに分かれてしまった。
「どうだ!これが破断流だ!!凄いだろ?」
「うん!すごい!!」
俺だけではなくまだ残っている子供たちもダンデの見せた石壁断ちには興奮していた。
これからこの技術を学ぶことが出来ると思うと俺もすごく興奮する。
「ショウ以外にも教わりたいガキはいるか?」
ダンデがそう聞けば、先ほどのパフォーマンスで自分もやりたいという子供たちは増える。流石にあんな物を見れば興奮するし、自分でもやってみたいと思うのだろう。
そしてダンデはまず拳の握り方から教え始めた。のだが、はっきり言ってダンデの説明の仕方は下手だった。
「ぎゅっと握ってビューッとやる。」とか「ここをこうやってこうする。」とかよく分からない上に身振り手振りで教えてくるのでほとんどの子供たちはダンデの話を理解出来ていない。
この事態に見守っていた冒険者たちは苦笑いをしているほどだ。冒険者たちはダンデの説明下手を知っていたのだろうか?
俺は幸いに【学生】ジョブの【学習能力上昇】のジョブスキルの効果のお陰でなんとなくだが理解している。
それを見てダンデは出来ている俺を基準にして周りの子供たちに指導をするせいで、他の子供たちは理解し切れていないようだ。
「ショウはなかなか物覚えが良いな。身体の動かし方も筋が良い。破断流の技は4つ。それを見せるぞ。ショウ以外にも見ておけよ。俺が覚えた方法も見て覚えるだったからな!」
そう言ってダンデが破断流の技を俺たちに見せてくれた。
まずは拳を振るい衝撃で両断する破壊の一撃を放つ戦断、手刀で衝撃を流し両断して破壊する断割、手刀突きで突き刺し衝撃を放ち破壊する穿断、足刀で蹴り抜き衝撃で両断して破壊する脚断、この4つが破断流の技なのだそうだ。
ダンデが石壁に放つ姿を見逃さない様にしているのだが、たった一度だけでは覚え切れない。
見様見真似でダンデと同じように身体を動かして拳を振るうのだが、俺の拳からはダンデとは違って衝撃が起こらなかった。
流石に見様見真似で行なうだけでは意味がないのかも知れない。でも、ダンデはこの方法で破断流を覚えたのだから覚えられはするのだろう。
ダンデの動きと同じように動いて石壁に拳を振るう俺の姿を見て、ダンデがしたアドバイスがこれだ。
「もっと思い切り良くやれ!気合いと根性で衝撃を起こすんだ!!」
「わ、分かりました。」
気合いと根性で本当に衝撃を起こせるのか疑問に思ったが、俺はとりあえずダンデのアドバイス通りに拳を振るうことにした。
「はぁああああ!!!!!!!!!」
石壁にぶつければ拳が痛い。そんな痛みを受ける事になることを覚悟しながらも、俺は気合いを入れるために声を出しながら拳を振るう。
ダンデの場合はズドンッと音が石壁を殴ればした。俺の場合はズンッと言う音がして石壁に小さな亀裂が走る。
「おお!出来たじゃないか!!ショウ、お前天才だぞ!!俺でも1週間掛かったのにな!俺は教師に向いているのかもな!ははははははははは!!!!」
高笑いをするダンデに冒険者たちは何を言っているんだと言う目を向ける者や、よくあんな説明だけでそれも5歳児が破断流の技を覚えられるとはと驚愕の顔をしている冒険者などに分かれていた。
それから俺は他の3つの破断流の技を威力が低くても使えるようにはなった。
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