第51話 オジさん騎士は悪報の波状攻撃にさらされる 5-6
わざわざ手を回してまでネコを
戦いを避けるつもりなら、いらぬ布石だからだ。
「ふん、結局のところやることは同じか」
「オジ、お前には
本来は兵士たちを真面目に戦わせるため、
ただオジには、兵を後ろから脅しつけるような真似をする気はなかった。
要は真面目に戦わせればいいんだろうと考えている。
「精鋭であるマムルークには頼れんというわけか」
「せめて経験豊富な補佐をつけよう。
ただわかってると思うが、傭兵ってのは基本的に士気が高いもんじゃない。
今まで逃げ出さなかったのも、砂漠には逃げ場がないってのが大きいんだろうぜ」
まったく、ひとつくらいは明るくなれる材料がないものか。
マムルーク三千は使いものにならず、傭兵隊六千のやる気には期待できない。
一方でバナヴィア帝国軍は、まだ一万五千の兵力を維持している。
その上、オーガやゴブリンといった魔物の軍三千まで味方につけているのだ。
これでは皮肉のひとつも言いたくなるだろう。
「この歳になると、真の友人とはなにかというのがわかってくる」
「ほう、聞かせろよ」
「世の中には一緒に仕事をするとき、友情を壊さないよう気をつかってくれる者と友人だからと無理難題を押しつけてくるヤツがいる」
「ああ、それなら俺も知ってるぜ」
ファタルは自分のグラスにも
「世の中には友人だからと甘えた仕事をするヤツと、無理でも無茶でも期待に応えようとしてくれるヤツがいるってな」
熱い視線を
けど、先にむず
「まったくお前というヤツは……」
「じゃ、あらためて乾杯だ」
ファタルは唇の端を持ち上げて白い歯を見せると、こちらへグラスを突き出してくる。
それでもう、オジは突っ張れなくなってしまう。
ふたりの間でガラスの澄んだ音が響き渡る。
「勝てよ、オジ。
俺はこれでもお前を英雄にしてやりたいと思ってんだぜ」
「調子のいいことを」
どこかで羽虫が飛んでいるのか、不快な羽音が小さく響く。
情勢が厳しいことはなにも変わっていない。
できる範囲のことで、やれることをやるしかないのだ。
だから決して警戒心を置き忘れてしまってはいけないんだろう。
「お前こそ気をつけろよ、ファタル。
誰がスパイかわからんのだ。
他の
もし本当に裏切り者がいるのなら、真っ先に狙われるのはこの男のはずだ。
焦土作戦のような大戦略を実際に指揮し、避難民を混乱なくカガラムに受け入れる準備を整えたのも、他でもないファタル・ボウなのだから。
「いっそ先手を打って、俺が
そうすりゃもう少しやりやすくなるんだが」
「お前がそんな面倒な役回りを希望してたとは初耳だ」
再びグラスを口元へ運ぼうとして、先ほどより羽音が大きくなっているのに気がついた。
それはすぐに爆音めいて大気を
ふたりは飛び降りるようにスツールから尻を滑らせる。
そのとき掃き出し窓の向こう側、バルコニーの上で黒い
「なんだ? あんなモンスターいたか」
「わからん! はっきりとは見えなかったが、ただの虫にしては大き過ぎる」
オジは早くも腰の剣に手を伸ばし、反対の手でファタルを背中に下がらせる。
直後、いきなり窓ガラスが砕け散る。
単眼のついたフライパンほどの飛行物体が、勢いよく部屋に飛び込んできたのだ。
飾り気のないつるりとしたボディは甲虫に似てなくもない。
だが羽根の代わりに四つのプロペラで浮き上がり、空中で姿勢を安定させる異形の姿はオジの人生で目にしてきたどんなものとも違っていた。
少なくとも
ここではない世界で――そいつは、ドローンと呼ばれる飛行兵器だった。
困惑するふたりの前で、本体から楕円の球体が分離される。
パイナップル状に
ハンドグレネードという名称も、それがどれほどの破壊をもたらすかも。
ここには知る者すらいない。
直後に二枚扉が弾け飛び、部屋中を凄まじい爆音が満たしていく。
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