第50話 再起

 アラヤがアストライアのコックピット内で引きこもっていた時、いきなりコックピットの扉が開く。


 これから誰かが来るような連絡はない。


 そのため、アラヤも知らない訪問者である。


 しかし、アラヤはその訪問者の方へ視線を向けることなく、下を向き続ける。


 そうして、アラヤが心を閉ざしていると、


「アラヤ?」


 その訪問者からニナの声が聞こえてきた。


 アラヤはその事実に驚きのあまり顔を上げて声が聞こえてきた方へ視線を向ける。


 彼の前には1人の人型ロボットが立っていた。


 特に人間らしい装飾などは施されておらず、ただの白いマネキンのようだ。


 それでもアラヤにはそのロボットの中にニナがいることが分かった。


 彼もなぜ、そう断言できるのか自分でも分からない。


 だが、そんなことはアラヤにとってはどうでも良かった。


 目の前にニナが立っている。


 それが偽の体でも彼にとっては些細な問題でしかない。


 アラヤがいきなり現れたニナに驚きすぎて固まってしまっていると、いきなり彼女がアラヤのことを抱きしめた。


 そして、ニナは、


「大丈夫だよ…アラヤ…私がずっと一緒にいるから…1人じゃないよ…」


 そう優しい言葉で囁きながらアラヤの頭を撫で始める。


 ロボットは機械であるため、冷たく、抱かれた感触も悪い。


 頭を撫でる手もぎこちなく、少し頭が痛い。


 それでもアラヤにはニナの温かさや優しさ、愛情を感じた。


 アラヤはニナに抱きしめられた途端、何かが切れたようにニナに抱き返しながら号泣する。


 ニナはアラヤの閉ざされた心の扉を開くことに成功したのだ。


 だが、これはニナだけの力ではない。


 ミナセの言葉もなかったら、アラヤの心を開くことができなかった。


 大切なニナからの愛情と救った者からの感謝の言葉により、アラヤは誰かに心を開く勇気が出たのだった。


 それから、アラヤはニナに抱きつきながら号泣し続ける。


 アラヤが号泣してからどれくらいの時間が経ったのだろうか?


 泣きに泣いたアラヤは気分が晴れたようであり、表情は明るいものになる。


 アラヤのメンタルを回復させることに成功したニナは安堵のため息をつくと、先ほどまで使っていたロボットを倉庫の端の方に置いたのだった。


 ロボットをどかしたニナは再びアストライアのコックピット内のモニターに戻ってくると、真剣な顔で何かを悩んでいるアラヤを見つめる。


 アラヤにも何か言いたいことがあるのだろう。


 ニナはアラヤが自分から言い出すのを母性の溢れた優しい笑みで待ち続ける。


 それから数分が経った時、アラヤは覚悟の決まった顔でニナに話しかける。


「ニナ、俺はミナセさんたちを助けにいきたい。俺はもう誰かを失うのも奪われるのを黙って見ているのも嫌だ。俺はみんなが笑って暮らせる世界を取り戻したい」


 アラヤは真剣な顔でそう告げる。


 そして、アラヤは言葉を続ける。


「それを実現するのにはニナが必要なんだ。それはこの機体を操るためじゃない。俺にはニナの支えが必要なんだ。こんなこと言ったら女々しいかもしれないけど、ニナが側にいないと俺は不安と恐怖で動けないんだ。だから、俺と一緒に戦ってくれ」


 アラヤは今まで隠していた本心を語る。


 ニナがいないと自分は何もできないと。


 ニナがいるなら何だってやってのける自信があると。


 そして、みんなが笑って暮らせる世界を作るために自分に協力してくれと。


 アラヤの思いを聞いたニナは不適な笑みを浮かべながら告げる。


「私もアラヤがいるから全力で物事に取り組めたし、アラヤがいるから頑張ることができた。私にもアラヤは必要なの。それに、私とアラヤは2人で1人でしょ?だから、私もアラヤと一緒に戦うよ!」


 自分も同じ気持ちであると。


 それに対し、アラヤも不適な笑みを浮かべながら答える。


「そうだな、俺たちは一心同体だ。2人で掴もう!!平和な世界を!!」


 そうして、アラヤとニナは出撃の決心をしたのだった。

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