第15話 告白
ニナの死を受け入れざるおえなかったアラヤはまるで、死んだ魚のような顔をしている。
彼はこの場を生き残る意味を見失ってしまった。
それに、アラヤはニナがいたからこそ、冷静さを保ちながら火事場の馬鹿力で行動できていた。
その心の支えを失ったアラヤはもう動くことができなくなってしまった。
アラヤはその場に倒れ込み、このまま命の灯火が消える瞬間を待っていた。
そうして、アラヤが全てを諦め、最後の瞬間を待っている時、ふと視線の先に何かが入る。
それは漆黒のATLASだ。
あのATLASは代々ベルナード家が受け継いできたものだ。
あの機体はこの世にATLASが生まれるよりもずっと前、地球に住んでいた人間が宇宙へ旅立ち始めた時代に見つかったものだ。
代々、技術職だったベルナード家はこのATLASを引き取り、この隠し整備場で研究を続けてきた。
この世に存在しない謎の技術、謎の素材を調べるために。
結果として、ベルナード家はアラヤの代までこのATLASのことは何も分からなかった。
そもそもこのATLASを起動すらもできたことがなかった。
アラヤが技術職を目指していたのは父の影響もあるだろうが、このATLASの解析も理由である。
アラヤはこのATLASを
そして、アラヤは二度とその夢を叶える機会を失ってしまった。
アラヤがこの場所を目指していた理由はレアル帝国にこのATLASを奪われないようにするためだ。
このATLASは何も解明こそできなかったが、それでもこのATLASが強力な力があることは分かっていた。
それはこの漆黒のATLASを初めて見たアラヤも同じであった。
このATLASをレアル帝国に取られれば、大変なことになる。
あの国に世界を支配されてしまうのは全ての人が地獄に落ちることを意味すると言っても過言ではない。
だから、アラヤは漆黒のATLASをレアル帝国に取られないようにするためにもここまで足を運んだ。
アラヤは漆黒のATLASを目にした時、
「ニナと一緒なら、このATLASも解明できると俺は信じてたんだ…」
アラヤは吐露する。
「なあ、ニナ…目を開けてくれよ…俺を1人にしないでくれよ…なあ、頼むよ…」
アラヤは抱きかかえるニナにそう懇願するも彼女から返事がくることはない。
そうして、アラヤがニナを抱きしめながら啜り泣いていたが、漆黒のATLASを眺めていると、何か思うところがあったのだろう。
溢れ出す涙を拭った。
そして、アラヤは思った。
せめて、ニナを家族の元へ届けよう。
それが自分が今できる最善の選択であると。
ニナを家族の元へ届けることを決意したアラヤは安全な場所を探す。
ニニシアには絶対に安全と呼べる場所が今のところない。
あの安全と言われていた避難シェルターすらも安全ではないのだ。
この隠し整備場も見つかってしまう可能性は大いにある。
そうして、アラヤはこのニニシアで一番安全な場所として、あの漆黒のATLASのコックピットを選んだ。
このATLASは現在最も切断能力の高いと言われている刃を使用しても、装甲を切るのに相当な時間がかかるほどの強度だ。
そして、このATLASには自動修復機能がついており、装甲を切ったとしてもすぐに破損箇所は治ってしまう。
そのため、漆黒のATLASのコックピット内は最も安全なシェルターと言っても過言ではないだろう。
アラヤはそう決めると、早速ATLASのコックピットへ乗り込もうとする。
このATLASは起動こそできなかったものの、コックピットを開けることには成功している。
成功しているというよりかはコックピット付近のパネルに手を当てるだけで開くのだが。
そうして、アラヤはニナを抱えてコックピット内に入る。
アラヤはコックピットの中に入ると、一気に力が抜ける。
どうやら、火事場の馬鹿力も尽きてしまったようだ。
アラヤはコックピット内で昔の記憶を思い出す。
小さい頃からニナとはずっと一緒だった。
最初の出会いは家が近かったというありふれた理由だった。
家が近かったという理由で同じ小学校へ進学し、中学校も同じだった。
そして、高校はアラヤがニナと離れるのが嫌だったため、彼女と同じ高校へ進学した。
大学はアラヤが父の後を継ぎ、本気でこのATLASを解明したいと思ったため、ニニシア工科大学を選んだ。
ニナにそのことについて問い詰められたアラヤは素直に理由を説明し、この隠し整備場を彼女にも教えた。
そうしたら、彼女も一緒に研究をしてくれると言ってくれたのだ。
アラヤは本当に嬉しかった。
ニナとならこのATLASも解明できるかもと思えるほどに。
ニナとのたわいもない日々を思い出したアラヤは再び涙が溢れる。
そして、抱きしめているニナに問いかける。
「なあ、ニナ…ニナは俺と過ごした日々は楽しかったか…俺はニナと出会えて本当に良かったと思ってる…俺の人生で一番の幸運は君と出会えたことだと俺は思ってるよ…」
アラヤはさらに強く、ニナのことを抱きしめ、吐露する。
「ニナ…俺は昔からずっと君のことが好きだったんだ…君がいたから俺は今まで頑張ってこれたんだ…これからも君のために頑張り続けるつもりだったんだ…そして、いつか君に本当の想いを伝えようと考えてたんだ…」
アラヤの目からは涙が止まらない。
「ニナ…大好きだ…ずっと一緒にいてほしい…君を絶対に幸せにする…だからお願いだ…目を開けてくれよ…」
アラヤからの問いかけにニナは答えない。
「俺を1人にしないでよ…」
アラヤがそう呟いた時、いきなり真っ暗だったコックピット内に光が溢れかえる。
それと同時に、アラヤが抱きしめていたニナが緑色に発光し始める。
アラヤは突然の出来事に混乱していると、先ほどまで抱きしめていたはずのニナの亡骸が突然アラヤの手元から消失する。
それと同時に、コックピットのモニターに文字が浮かび上がる。
《ーーーアストライアーーー》
《ーーー起動ーーー》
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