第18話 手
私を殺してくれ。
そう、願い出たら、マスターはいつもの余裕綽々の表情で以て、態度で以て、纏う空気で以て、わかったと言った。
殺して、吾輩の手で生き返らせて、望むのならばまた殺して、吾輩の手で生き返らせて。
そなたが願うのならば、幾度でも、幾度でも、幾度でも、叶え続けよう。
それはいいな。
そう思った。
マスターの手で殺されて、マスターの手で生き返らせてもらえたのならばきっと。
私は、私自身に恐怖を抱く事はないだろう。
未来永劫に。
私は、マスターに恐怖を抱く事は決してないだろう。
未来永劫。
マスター、私の願いをどうか聞き届けてくれ。
逸る気持ちを込めて重ねて願いを口にするつもりだったが、できなかった。
口が、動かなかったのだ。
ああ、そうか、私は、私の夢の中でさえ、ままならないのか。
意気消沈する自分と。
これでいい。
安堵する自分が居た。
願い出るな、マスターに手を煩わせるな、死ぬなら自分か、ドクターの手で。
『咲茉』
願いはやはり叶えてくれなくていい。
動いた口でそう言うと、マスターは私の名前を口にした。
現実では一度たりとも見せた事がない、寂しげな表情を向けて。
『咲茉。そなたを殺すも生かすも吾輩の手で成し遂げたい』
『ただ願わくば、』
(2024.8.22)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます