第2話 お昼寝
威風堂々たる吾輩の羽ばたきの前では、如何な生物でも無生物でも、吾輩に音を届ける事は叶わず。
吾輩は偉大な紅の竜。
吾輩が飛翔している時、世界を、音を、響きを支配する。
もう一度言おう。
吾輩の羽ばたきの前では、如何な生物でも無生物でも、吾輩に音を届ける事は叶わない。
はずだった。
『お願いだ!私を空へと導くマスターになってほしい!』
一音も欠かす事なく、吾輩に届いた。
言葉として。吾輩に届けたのだ。あの童は。生物の血肉を僅かに残す、童の姿形をした機械生命体は。
クハッ。
吾輩は歓喜に打ち震えた。
よかろう。よかろうよかろう。
吾輩の羽ばたきに打ち勝った唯一無二の存在よ。
そなたの願いを叶えてやろう。
「マスター。一日に三度も、しかも、マスター自ら私のメンテナンスをする必要はない。ドクターに一か月に一度依頼しているので大丈夫だ」
「吾輩のように気高く飛翔したければ、吾輩の言葉を素直に受け取るがよかろう。うむ。ほれ。昼のメンテナンスは終わった。異常はない。次は夜のメンテナンスだ」
「………必要ないと思うのだが」
「必要あるからしているのだ。うむ。お昼寝の時間ぞ。吾輩と共に寝ようぞ」
「………必要であるならば」
「必要だ。何度も言っておろう」
「………わかった」
(2024.8.8)
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