第3章
第14話 甘い朝
翌日。
「……ん」
鳥のさえずりが耳をくすぐって、ヴィエラは薄らと目を開く。
体が温かい。
何かに包まれている安心感に、ただただ落ち着く。
ヴィエラは猫のように、すり……とそれにすり寄った。
「……どうした。朝から積極的だな」
途端低く甘い声に囁かれて、ヴィエラはぱちりと目を見開く。
「お、お、お……オズウェル……っ!?」
ほんの少し顔を上げた先に、オズウェルの端正な顔がある。あまりの近さにヴィエラは上手く声が出なくなってしまった。
どうやらオズウェルに腕枕をされた状態で眠っていたらしいと、ヴィエラは気づく。
(な、ななな、なな……!)
赤い顔で口をぱくぱくとさせるヴィエラに、オズウェルはふ、と軽く笑った。
「おはよう」
「お、おはよう……。わ、わたし、昨日……っ」
昨夜、部屋にやってきたオズウェルと話して、キスされて……、そこから先の記憶がヴィエラにはない。
(私、もしかして……!?)
起きたら、服を着ているとはいえ二人並んでベッドで横になっているというこの状況。
もしやとヴィエラは慌ててしまう。
「途中、気を失ったようだったからベッドに運んだ。離れがたかったからそのまま一緒に寝たんだが、迷惑だったか?」
「へ……っ!? あ、ああ! そういう事ね!!」
ヴィエラはほっと息を吐き出した。
(……あれ、私……なんで少し残念に感じているの?)
ほっとしている自分と、残念に思う自分が胸の奥に混在しているのを感じて、ヴィエラはなんだか恥ずかしくなる。
「本当は今すぐにでもお前が欲しいんだがな……」
オズウェルはそういうと、ヴィエラの肩にかかる金の髪を軽く払い除けた。
ヴィエラの白い首筋をつつ、と指先でなぞっていく。
「オズ、ウェル……っ仕事は……っ?」
指先で撫でた箇所を追うように、オズウェルがちゅ、ちゅ、と軽いキスを落としてきた。
その甘い触れ合いからどうにか意識を逸らそうと、オズウェルの腕の中でヴィエラは必死に言葉を紡ぐ。
というか、本当に仕事は大丈夫なのだろうか。
ヴィエラがルーンセルンに来たばかりの頃、オズウェルは仕事ばかりしているイメージがあった。
昨日だって貴族たちと会談を行っていたはずだ。
「大丈夫だ。お前を構うために、今ある仕事はすべて片付けてある」
(え……まさか)
あの仕事漬けは、今のこの時間のため?
その可能性に気づいて、ヴィエラの思考がわずかに止まる。
「だから、お前は何も気にする必要はない。大人しく私に甘やかされていろ。やっと、お前をそばに置けるのだから」
そう言って、オズウェルはヴィエラの顎を指先で捕らえた。
くいとヴィエラの顔を上向かせ、そのまま深く口付ける。
「ヴィエラ……。好きだ」
耳の中へ直接吹き込むように囁かれて、ヴィエラはぎゅっと目を瞑る。
その時、コンコンコン、と扉をノックする音が聞こえた。しばらくして扉が開かれ、中に誰かが入ってくる。
「ヴィエラ様、おはようございます。朝ですよ――」
「せ、セリーン……っ!」
セリーンだ。ヴィエラを起こしに来てくれたのだろう。
部屋に入ってきたセリーンはいつものようにベッドの方へとやってくる。そうして、ベッドの上で抱き合うヴィエラとオズウェルの姿を見たセリーンは、ものの見事に3秒固まった。
「…………。失礼いたしました」
短く言うなり、セリーンは
「待って! 違うの!」
「何が違うんだ」
慌ててセリーンを呼び止めようとするが、あっという間に部屋を出ていってしまった。もう居ない。さすがというかなんというか、いつもながら動きが素早いメイドだ。
対してオズウェルはというと、いつも通りの表情を浮かべている。
「……なんでもないわ」
落ち着いているオズウェルを見ていると、慌てているこちらの方がおかしいのではないかと思えてきて、ヴィエラは苦笑いを浮かべた。
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