第12話 告白①
「……はぁ」
就寝前のひと時。
いつもであれば、窓越しに雪の降るルーンセルンの街並みを眺めたり、読書をしたりして過ごす。
しかし、今日のヴィエラはベッドに腰掛けたまま盛大にため息をついていた。
レミリアが去った後、ヴィエラはとりあえず書庫に向かった。
だが、レミリアから言われた言葉が頭から離れず、結局調べ物はあまり手につかなかったのだ。
レミリアとのことについて、オズウェルにいろいろと聞いてみたい気持ちはある。
だけれど、昨日オズウェルにキスされたということもあって、会いに行くのはどうしても躊躇してしまう。
ずっとどうするか悩みつづけ、そうこうしていたらこんな夜更けになってしまった。
(でも、このままじゃ寝られそうにないわ)
ヴィエラはサイドテーブルに置かれた時計へ視線をやった。
コチコチと進む時計の針は、もうすぐ12時を示そうとしている。
(やっぱり、どうしても気になる。でもこんな時間だし……話を聞いてさっと戻ろう)
ようやく決意を固めたヴィエラはベッドから立ち上がった。
(……このまま行くのは、少し寒いわね)
オズウェルのところに行くと決めたのはいいのだが、さすがにネグリジェだけで廊下をうろつくのは冷える。
ヴィエラが椅子にかけていたカーディガンに手を伸ばしたその時だ。
コンコンと部屋の扉が叩かれた。
「きゃ……っ! ど、どなた?」
「私だ」
(この声……)
低く、甘い男の声。オズウェルだ。
今しがた会いに行こうとしていた人の声が、扉越しに聞こえる。
ヴィエラは信じられない思いで扉に手をかけた。
ゆっくりと扉を開く。そこには案の定、オズウェルが立っていた。
「……オズウェル……どうして」
(会いに行こうとしていたのは私なのに)
まさかオズウェルのほうから部屋に来るとは思わなくて、ヴィエラはどうしたらいいのか分からなくなってしまう。
「……昨日のことを、謝りに来た」
「え……」
オズウェルは部屋の中に入ると、真剣な眼差しでヴィエラを見つめた。
謝りに来た?
どうして?
ヴィエラの頭にはクエスチョンマークばかりが浮かぶ。
謝られるようなことがあっただろうか。
「昨日は……無理やりお前に口づけて、すまなかった」
「え、え、ええっ」
オズウェルの言葉に、ようやくヴィエラはオズウェルが何に対して謝っているのかを理解した。
(……どうして謝るの?)
ヴィエラは不思議に思う。
謝るということは、あのときヴィエラは嫌がっていたと思っているのだろうか。
(嫌じゃ、なかった)
ヴィエラはあの時の自分の感情を思い起こした。
あのときオズウェルに触れられて感じたのは、嫌悪などでは無い。
戸惑いと、恥ずかしさと……。それから、嫉妬するほどに自分は求められているのだという喜び。
(私はやっぱり、オズウェルのことが好きなんだ)
オズウェルのことを考えるだけで胸が熱くなるのも、話したり触れたりしたら顔が赤くなるのも、レミリアとの関係が気になるのも。
全部全部、一つの答えに繋がる。
「オズウェル、謝らないで……っ嫌じゃ、なかった……から」
「…………は?」
恥ずかしさを堪えながら告げたヴィエラに、オズウェルは信じられないとでも言うようにぽかんとしていた。
「……お前がどういうつもりで言っているのかは知らないが、都合のいいように解釈されてもおかしくないぞ?」
「構わないわ。昔の私があなたのことをどう思っていたかは分からないけど、少なくとも今の私は、あなたのことが好きなんだと思う」
(……あ)
ヴィエラの言葉にオズウェルは動きを止めた。
それを見て、ヴィエラは咄嗟に自分の口を手で押さえる。
勢いとはいえ、素直に思いを口に出してしまっていた。
「ご、ごめんなさい、突然……! ああでも今のは嘘じゃなくて……!」
(どうしよう、さらに墓穴を掘っている気がするわ……!)
ヴィエラはわたわたと手を振りながら、どうにか誤魔化そうとする。慌てて口走っているせいで、余計に悪化している気がしなくもない。
対してオズウェルは、ヴィエラの様子を何かをこらえるように大きく息を吐き出した。
「お前は……。あまり可愛いことを言うなと言ったのに……」
「……えっ?」
ヴィエラがオズウェルに視線を向けたその一瞬。
呻くような声が聞こえたと思ったら、ヴィエラはオズウェルに強く抱き寄せられていた。
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