微熱
(⌒-⌒; )
第1話
その横顔に目が離せなかった。
朝の気怠さを孕んだいつもの教室。爽やかな風が窓から入り込み、その気持ちよさと早朝の眠気に中々授業に集中できない空気をいつも感じていた。
騒々しかったホームルーム前とは打って変わって今は閑散とした教室の中、チョークを擦る音と、先生の声だけが響いていた。
例に漏れず私も中々集中できず淡々とノートに文字を書く。内容は全くと言っていいほど理解していない。
その原因である風の吹くほうへと目をやると、一人の男の子がいる。幼さを湛えた顔でぐっすりと、無防備に気持ちよさそうに、そして遠慮なく眠っている。
起こすのも罰が当たるほど気持ちよさそうなその寝顔に見惚れた。そしてこの顔を独り占めしたいとも、同時に思っていた。
瞬間、ゆっくりと開かれた瞳に貫かれて思わず心臓がドキリと動いた。
さっきの寝顔とは違う鋭い目つきが私に視線を合わせている。彼はそのまましゃがれた声を出した。
「
「まだ始まってから20分しか経ってないよ」
私は苦笑してそう答えた。
彼は一度時計を見てから
「サンキュ」
と反対方向に顔を向けまた夢の中へと向かっていった。
私は少し残念な気持ちになりながら前を向いた。すでに私の書いていた文字は消されて新たな文字が黒板に写されていて私はすぐに書き写す。
はあ、と少しだけ重いため息をついた。
もう少しだけ、いや叶うならずっと隣で彼の顔を見ていたいのに。
————
一年生の途中に、他県からこの高校に転入して来た少し変わり者の男の子だというのが最初の印象だった。
すでに出来上がったコミュニティと彼の性格が影響していてか、周囲にはあまり馴染めない彼は、どういうわけか私とは少しだけコミュニケーションを取るという不思議な関係になっていた。それからよく会話をしていくと彼はただ不器用なだけだということに気づいて、今ではとても仲良くなっていた。
私は彼の中でどういう存在なのか、そんなことばかり考える日々。そんな私もあまり友達が多い方ではなくはぐれ者同士気でも合うんだろうか。
「渚沙って、結構中条と仲いいよね」
「そうかな?」
昼休みいつも一緒に食べる
「だって中条が人と話してるとこなんか渚沙くらいだよ?」
「それは言い過ぎじゃない?」
「いやいや本当だって」
莉子の言葉を否定しながらも心のどこかでは確かにそうかも、と納得していたし、おそらく私以外と話しているところは見たこともなかった。ただ一人スマホをポチポチと弄っていて、近寄りがたい雰囲気を出しているからかな。
前に少し覗いたときは誰かにメールしているようだった。
「まあ、なんかあったら言ってね、恋の相談でも、悪い事でも」
ドキリとした。まさか莉子の口からそんな言葉が飛び出すと思っていなかったから。
「そんなこと何もないよ」
「ええ? 恋バナとかしたいー!」
「そういう莉子は?」
「私? 私は渚沙が一番だよ!」
と抱き着いてきて頬をすりすりと私に擦ってくる。
正直今はやめてほしかった。もしこの心臓の高鳴りが聞こえてしまったら、と不安だった。図星を突かれて平静を装えているか気が気でない。
抱き着く莉子を引きはがし、どうにかこの高鳴りを沈めていく。でもやっぱりまだ顔に熱が溜まっている。
そうなのだ。私は一年生の頃から、中条大河くんに————片思いしている。
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