ストレスと仕事ってワンセットですねっ

 違法工場制圧から早1週間ほど。私は秘匿通信機器から鳴る最悪のモーニングコールに悩まされていました。


【うん……。ここ1週間の事だけど、起眞市を中心地とした犯罪組織のグループの数が増加しているんだ】

「その制圧の担当が私ぃ!?」

【同時期に特殊グループも動いているらしいんだけど、戦果はまだ少ないようでねぇ。こっちの特殊部隊SSFは出払っちゃってるから、受けてくれると助かるんだよ】

「お仲間さんはっ!?私なんかよりお仲間さんの方がこういう作戦に適してるでしょう!?私嫌ですよ市街地戦!」

【お仲間さんは別行動だね。大丈夫。こちらからそれ用の武器は出すよ】

「そういう問題じゃなくて――」

【それじゃ、最初の標的を始末するために、明日の夕方6時に起眞市総合物流センター近くの喫茶店で会おう】


 そういうと依頼人さんはブツッと回線を切ります。


「まだ話は終わって……あああっ……」


 作戦情報も出されて、半ば強制的に引き受けられましたか……。よっぽど切羽詰まってるんですかねぇ。


「はぁ……しんどっ」


 久方ぶりのクソデカストレスに悩まされつつ、パジャマから着替えた私は取り敢えずバイトへ行くことにしましたっ。




――――――――――――――――――――




「はぁ……」


 そしてバイトが終わっていよいよ夕方。今日何度目か分からない溜め息をつきながら、私は長らく閉店している二階建ての喫茶店に着きました。

 半分ほど閉じたシャッターを潜り抜けて侵入し、そこから二階へと上ります。

 二階の窓は既にシャッターが閉まっており、灯りや物音を一切通しません。そして二階の中心にぽつんと置かれたテーブル席には、火をつけない今時のランタンを灯しながら、優雅に読書をしている依頼人さんがいました。


「お疲れ様、姫」

「その名称で呼ぶの辞めて下さい。恥ずかしいですから」


 私は少し不機嫌そうにしながら、席につきます。


「まあまあ、組織はそういう決まりだから」

「やっぱ胡散臭い厨二集団に改名したほうが良いですよね」

「ガワだけ見れば否定出来ないなぁ」


 本を閉じながら間の抜けた声で依頼人さんはそう答えます。

 愛嬌は良くてとても接しやすいんですが、気は抜けない人ですねぇ。


「……それで、作戦の詳細と武器は?」

「おっ、受けてくれる気になったかい」

「起眞市の平和とバイト生活が掛かってますから」

「バイト生活に関しては、君がやりたいだけでしょ。それじゃ、本題に入ろっか」


 そう言うと、依頼人さんは腰を屈めてビジネスバッグを漁った後、ホッチキスで止められた紙と一丁の銃、Glock19をテーブルに置きました。

 私はそれを受け取り、軽く目を通します。


「君が隠密行動に不慣れなのは知っているからね。最初は簡単な依頼を出させてもらうよ」

「簡単とは、良く言いますねぇ……」


 紙に書いてあることを纏めますと、ターゲットは貴島きしま 義彦よしひこ。四十代の男性だそうで、ボサッとした黒髪に根暗な顔が印象的ですね。西区の住宅地にある一軒家に住んでいるそうです。

 依頼内容は対象の暗殺。一軒家に住んでいるそうで、常に専属のボディーガードが付いているそうですね。彼が帰ってきた丁度を見計らってやるのだそうです。


「君が対象を始末してくれたら、後はこちらでどうとでもなる。頼んだよ」

「……これ、何で誰もやらないんです?」

「さあ、大方上からの指示じゃないかな」


 上から、多分嘘ですかね。依頼人さんも随分とお人好しですねぇ。


「はぁ、分かりました。不服ですが、引き受けます」

「了解。何か気になった点はあるかい?」

「いいえ。何もありません」

「分かった。それじゃ、行ってらっしゃい」


 私はサプレッサーのついた席を立ち、喫茶店から出ます。


「私を教育しても無意味だと言うのに……」


 ちょっとした本音を出しながら、私はトボトボとターゲットの元へと歩みを進めます。


 しばらくしてターゲットさんの自宅付近に到着すると、私は周りを見渡してから、一気に跳躍して他の家の屋根に跳び移ります。

 そしてターゲットさんを待つ間、支給された銃を見つめます。Glock19、アメリカでかなりメジャーな銃ですね。あんまり言うことは無さそうです。

 銃をあらかた見つめ終わった後、私はパワードアームを手に嵌め、起動しておきます。


「パワードアーム・フェーズ1、起動」


 そこからしばらくして夜の時間帯、ターゲットさんの自宅の前に、1台の車が止まりました。黒く塗られた車体の車からはターゲットを含めた三人が出てきます。


 私は周りにカーテンを開けた家がいないことを確認し、一気に飛び出しました。


 屋根から飛び出し、向かう先はターゲット。上からの襲撃は当然想定外なので気づかれていません。


「コキッ……」


 着地と同時にターゲットの首をもぎ取り、ゆっくり義彦にします。


「……っ!?」

「プチッ……」


 ゆっくり義彦を地面に捨てた後、私の化け物みたいな身体能力を使ってボディーガード二人の首を握りつぶし、再起不能にします。


「なっ!?」

「グチュッ……」


 最後に空いている車のドアから一気に入り込み、運転手の首を掴んで握りつぶします。

 全員片付けた事を確認し、私はターゲット達だったものを車に投げ入れ、アスファルトについちゃった血を早急に拭き取ります。


「ふぅ……」


 その後私は車に乗り込み、なんちゃって知識で車を動かします。

 返り血は後で洗濯するとして、お仕事終了ですね。誰も見ていないといいのですが、まあ、そこら辺は依頼人さんが上手いこと処理してくれるでしょうね。

 諸々を詰め込んだ車は例の喫茶店の前まで持っていき、路駐しておきます。


 そして喫茶店の中に入り二階に上がると、そこには電話出来る寸前まで操作が進められた、一つのケータイがありました。

 依頼人、と書かれた一つの連絡先に、私はそのケータイで電話を掛けます。


「プルルル……カチャッ」

「もしもし。終わりました」

「お疲れ様。ターゲットはどこにあるかな」

「喫茶店前に停めた車の中です」

「了解。すぐ処理班にやらせるね。それじゃ、仕事は終わりだ。帰っていいよ」

「お疲れ様でした」


 簡単なやり取りを済ませ、私はケータイの通話を切り、握りつぶします。


「ふぅ……仕事のストレスを精密機器で発散するのは気持ちが良いですね!」


 私は誰にも届かない声を上げ、握りつぶされたケータイを眺めます。紙粘土を潰した形みたいになっていて面白いですね!

 私はケータイだったものを近場のゴミ箱にポイ捨てして、喫茶店を後にしました。

 今日はコンビニのコーヒーでも買って帰りますかね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る