第27話
夜の静けさの中、ソラとミユは研究室の机に向かって座っていた。二人が取り組んでいるのは「テレパシー結合」、特に「感情結合」についてのレポートだった。感情結合とは、二人のテレパシストが互いに感情を共有し、精神的な繋がりを深める特殊な技術であり、テレパシストの相性が結合の成功に大きく影響する。その過程は、繊細で高度な技術が必要とされ、何度も繰り返し練習を重ねてきた。
「リラックスして、ミユ」とソラが小声で言う。彼女の声は優しく、穏やかだった。
ミユは深呼吸をし、肩の力を抜いてソラの言葉に従った。二人はお互いを見つめ、目を閉じたまま心を静かに整えていく。テレパシー結合に必要なのは、ただの集中力だけではなく、感情的な結びつきだった。心が乱れていれば結合はうまくいかないし、二人の心が同調しなければ、テレパシーを正確に繋ぐことはできない。
ソラはゆっくりと手を伸ばし、ミユの肩に触れる。触れた瞬間、ミユは少し身震いし、顔が赤くなったが、それをすぐに隠してソラに微笑み返した。互いに感じ取っているものを、心の中で整理しながら、次のステップに進む準備を整えていた。
「準備はいい?」ソラはもう一度確認する。
ミユは静かに頷いた。二人はそっと手を握り合い、その瞬間、まるで見えないハグを交わすように精神的な触れ合いが始まった。これを、二人は「テレパシーハグ」と呼んでいた。お互いの存在を意識し、心を交わし合うことで、勇気と安心感を共有し、結合のための精神的な基盤を固めていく。
その繋がりは、ただ感覚的なものだけではなく、もっと深いところで結ばれていた。二人の感情がじわじわと互いに染み込んでいき、やがてそれが意識の中心に集約されるのを感じる。顔が赤くなるのは、単にテレパシーの作用だけではなく、互いの存在がより強く感じられるからだった。
次第に、ソラとミユは互いの精神波に焦点を合わせ始めた。まるで、二つの波がぴったりと重なる瞬間を探るように、お互いの波長を感じ取り、それを調整していく。呼吸のリズムがシンクロし、脈打つ鼓動さえも一体となる。テレパシーの波長がぴたりと合うと、次の段階に進むことができる。そうして、二人は静かに精神波を同期させた。
ソラの心がふと、ミユの中に流れ込んでいく。ミユも同じように、ソラの心を感じ取った。互いの意識が入り混じり、彼らは徐々に「自分」という境界を越えていく感覚を抱く。
そして、最も深い部分で、二人の意識が完全に結びつく瞬間が訪れる。
「ソラはミユであり、ミユはソラである。」
その言葉が二人の心に浮かんだ時、彼らは驚くべき感覚に包まれた。互いが互いであるという事実が、まるで自明のことのように感じられた。ソラの思考がミユのものとして流れ込み、ミユの感情がソラの中で自然に芽生える。この瞬間、彼らは完全に一つとなった。
言葉はもはや必要なかった。お互いの感情や思考が、まるで一つの存在であるかのように共有され、伝わっていく。喜び、悲しみ、驚き、全てが同時に感じられ、心の中で響き合う。その感覚は、まるで深い瞑想状態に入り、宇宙の一部と化したような静謐さと充足感をもたらした。
二人は目を開けた。互いの瞳に映る自分が、いつもとは違って見えた。ミユは微笑んで言った。「すごいね、ソラ。これが感情結合なんだ。とても素敵、とても暖かい。」
ソラも微笑み返した。「うん、私たち、今本当に一つだった。」
二人は手を離し、心の中に残る余韻を感じながら、少しだけその場に座り続けた。それは、言葉では表現しきれない感覚だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます