明日を紡ぐ殺意殺し

ronboruto

第1話 出会いと始まり。

世界人口の一割、約八億人が新しい身体機能『超能力』を持つようになった時代。

日本は東京の練馬区、葛飾区、品川区、港区、中野区、千代田区、中央区、北区に魔法師を集め、異能区をつくった。そして異能区の外で暮らす、新条新の最初のお話。

異能区に暮らす者たちは身体から炎を出したり、雷を出したり。更には重力を操ったりする事ができるという。東京は日本の中心都市であり、魔法実力社会でもあるのだ。


―――二〇二九年七月。夏休み終盤の日曜日。

異能区の外、東京のとあるマンション。

ピンポーン、ドサッ。家の呼び鈴が鳴り響いた。両親と談話していた新条新は、玄関を開ける。

「はーい、どちら様――」

ありゃ?誰もいない……ピンポンダッシュか?

「うっ……」

「……ん?」

謎の声に引かれて下を見ると――女の子。黄金の髪の女の子。どう見ても日本人には見えない。

「ぎぃやあああああ!」

驚きすぎて変な声が出てしまった。ここマンションだよ?オートロックは?

「新、どうしたの?」

「おい、いったいどうし――」

両親が声に反応し出てくる。

「どうしたんだ、その子――」

「新、急いでベッドに運ぶわよ!」

「わ、分かった!」

新条新のベッドに運び、母が身体を見るが――。

「……どこも怪我してないわ。じきに目を覚ますと思うけど……」

「どうしてうちの玄関の前に……」

「しかもここ九階だぞ、オートロックもあるし、管理人だっているはず…あ、今日日曜か」

「「「うーん……」」」

『女の子』は以前目を覚まさない。そろそろお昼だが……。

「さ、そろそろご飯にしましょうか!」

「お、そうしよう」

「この状況で?……まあいいけど……」

スーパーで買ったラーメンをどんぶりで食べる―――。

そして何口か口に入れたとき。

ギシ……と廊下からの足音が。

「あの……」

ドアが開き、出てきたのはさっきの女の子―――。金髪蒼眼って……どう見ても外人―――。

「あら、起きたの!いったい何があったの?玄関に倒れてたけど―――」

「私は―――うぐっ……」

少女は頭を抑える。頭痛か?

「どうした!」

新条が駆け寄ると、少女は顔を上げて―――。

「……アリス……」

「アリス?」

そう聞いて新条の頭に真っ先に思い浮かんだのは、『不思議の国のアリス』。

「それが、私の名前、です……」

「アリス……アリス、一体何があったんだ、どうしてマンションの中にいるんだ」

新条はしゃがんで視線を合わせ、アリスと名乗る少女に聞く。

「誰かに、追われて……そこから先が、思い出せなくて―――」

―――――――――――――――――――記憶喪失?

「記憶喪失ってことは……頭に何かショックを受けたのか?」

「分かりません……」

「「「……」」」

しばらくすると新条の両親は思いついたというように。

「「じゃあ、ここで一緒に暮らす?」」などと言い出したのだ。

「はあ⁉」

「えっ……いいんですか?」

「二人共何言ってんだ、こういうのって警察とかに――」

しかし親父は笑って。

「誰かに追われてるってことは、警察も信用できない可能性がある。それなら、うちで匿った方がよっぽどいいじゃないか」

「そりゃあそうだけど……」

「もちろん、部屋は新の部屋でお願いね」

「……………………は?」

母の口から核級の爆弾発言。

「なんでだよ⁉」

母は飄々と――。

「だって部屋がないし、同じくらいの歳の方がアリスちゃんも安心できると思うの」

「……………………じゃあベッドとかどうすんだよ、うちには予備なんて―――まさか……」

「ええ、もちろん。新と一緒のベッドで♪」

新条は放心状態に。

「アリスちゃんもそれでいいかしら?」

「はい……むしろ、誰かが近くにいた方が……安心できます」

「そう、良かった。――改めて、私は新条亜弥。で、こっちのハンサムが私の夫。新条正輝ね。そしてそこで放心してるのが――新条新。私たちの息子。……ルームメイトみたいになるわけだけど……新ってちょっとダメなところあるから、まあ、お願いね」

そこで父が。

「そういえば……『苗字』(ファミリーネーム)って覚えてるかな?分かるなら教えてもらいたいんだけど……」

「私の、名前……」

新条亜弥がアリスの姿をもう一度よく見ると、まるで中世ヨーロッパのような服装……。青いエプロンのような、メイド服のような……。そして新条亜弥は思った。『着せがいのある人材が来た』と。

「……………思い出せません」

「そうか……誰かに聞かれても親戚だとか、友人の娘だとか言えば何とか誤魔化せそうだが、名前を聞かれたら一巻の終わりとなりかねん……どうしたものか……」

「あら、それなら簡単じゃない」

「「えっ?」」

 新が気付くと、四人で食卓についていた。

「……………………どうしてこうなった……」

「新、改めて挨拶なさい」

「……新条新だ。新でいい……よろしくな」

「……………………アリスです。これからよろしくお願いします」

「それと、アリスちゃんはこれから家族だからよろしくね」

「それって……」

恐る恐る新条が聞くと。

「アリスちゃん、本名がアリス・新条……日本国籍作るから新条アリスになるわね」

「――⁉……それ誰かに知られたらヤバいやつじゃん!友達に知られたら許嫁だとか学生結婚だとか、色々言われるんだけど!」

「あら、それいいわね」

「いやいや良くない良くない!」

「ま、頑張って!」

「あーっと、アリスさん?は本当にそれでいいのか?」

「ええ、構いません。こちらはお世話になる側ですから、それに……同じ部屋、同じベッドに入るのですし……アリスと、呼んでください」

…………その話、本気だったのか―――――――!

「よし、それじゃあ!これから四人家族ということで!」

「おーっ!」

「おー……」

新条新がとなりのアリスの顔を覗くと、本当に可愛い笑顔をしていた。……ちょっとドキッとしたのは内緒で。

――――おい、ホントにどうしてこうなった……。

頭の整理がつかないうちに、新は亜弥からお使いを頼まれた。

「それじゃ、行ってきます」

「行ってらっしゃい」

新条は玄関のフックにかかっている『家の鍵』を取らないまま家から出た。いや、取る必要が無かったのだ。

見送ったアリスがそれに気付き――。

「あれ?新、鍵を持って行ってない……」

「ああ、新にはあんまり関係ないんだよ」

「?」

 アリスが何故〝鍵〟や〝言葉〟の『知識』を覚えているか―――。

医者である親父が言うには、人間の記憶というものは一つではなく、『感覚記憶』。『意味記憶』。『エピソード記憶』。『手続き記憶』を脳に保存しているらしい。内側側頭葉?だっけ?なんかそこが関係しているんだとか……よくわからないが、とにかく『常識』は持ってる……はずだ。

親父はこうも言っていた。『元の記憶が常識を持っていない人格のものだとしたら、記憶を失った時の非常識さは、想像がつかない』と。


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